コンディションを考えれば十分に魅力的な落札価格
2023年11月4日、RMサザビーズがイギリス・ロンドンで開催したオークションにおいてフェラーリ「348」が3台出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
フェラーリ328の後継モデルとして登場
RMサザビーズが2023年11月4日に開催したロンドン・オークションは、さすがは自動車趣味の本場らしくバラエティに富んだ出品内容で、落札者や世界のオークション・ウオッチャーを楽しませてくれるものだった。
たとえば常にオークションの華となるフェラーリに関する出品は、全127ロットのうちオートモービリア(書籍や関連物など)や車両を合わせて、じつに30ロットを数えるほどの盛況ぶり。最高価格で落札されたのは1993年に3台のみがマラネロのファクトリーで生産された512TRのスパイダーモデルで、これに1990年式のF40が続くという展開だった。ちなみにオークション全体の成約率は87%と発表されている。
同じフェラーリでも、比較的リーズナブルに手に入れることのできるモデルがある。ということで今回のロンドン・オークションで注目してみたのが、同時に3台が出品された348シリーズだ。
348シリーズは、それまでの328シリーズの後継車として1989年のフランクフルト・ショーで発表された、まさにフェラーリの1990年代を担う8気筒ミッドシップ。328はその歴史をさかのぼれば、1975年発表の308GTBにまで行きつくことができるから、ピニンファリーナのレオナルド・フィオラバンティとそのチームによって描き出されたボディデザインが、当時いかに新鮮で現代的なものに見えたのかは想像に難くない。サイドやリアのフィンには、その前年に発表された12気筒ミッドシップのテスタロッサから受け継がれたと見られるフィンが設けられ、それによって348の外観はよりラグジュアリーな印象へと進化を遂げている。
348シリーズで最初に誕生したのは、ベルリネッタ(クーペ)の「348tb」と着脱式のルーフを持つ「348ts」の両モデルだ。それまでフェラーリが伝統としてきたチューブラーフレーム構造をやめ、新たにモノコック構造を採用したのはこの348シリーズの大きな特徴。リアには鋼管スペースフレームが接合され、ここに新開発の3.4L 90度V型8気筒エンジンが搭載された。最高出力は300ps。それを縦置き搭載し、対して組み合わせる5速MTは横置きされる。車名に添えられる「t」の文字は、トランスバーサル、すなわちこのトランスミッションの横置き搭載を意味している。
出品車両はどれも低走行モデル!
そのコンディションの低さから、市場ではなかなか人気が盛り上がらない傾向にある348シリーズだが。今回ロンドン・オークションに登場した3台の348は、いずれもミント・コンディションともいえる。とてもそれが30年近くも前に生産されたモデルとは思えないほどのクオリティを保持したものだった。
まずは1992年式の348tsの1台は、右ハンドル仕様としてオーダーされたもの。シャシー・ナンバーとエンジン・ナンバーのマッチングはもちろん確認されている。驚くべきはその走行距離で、ファーストオーナーであるシンガポールのカスタマーは、登録することなく、オドメーターはわずかに179kmを刻むのみの状態にあった。
落札価格は6万4400ポンド(邦貨換算約1190万円)。そのコンディションを考えれば十分に魅力的な落札価格と考えられる。
もう一台の「348ts」も、やはり1992年式の低走行車で、こちらのオドメーターはわずかに130kmを示すのみ。ハンドル位置はやはり右だ。参考までにこちらの落札価格は4万8300ポンド(邦貨換算約890万円)という結果だった。
1994年式の348GTBは、それまでの348tbの進化形といえるもの。ラインナップとしては、フルオープン仕様の「スパイダー」が追加設定され、GTB、GTS、スパイダーの3モデル体制での販売が行われている。348tbから外観で特別な変更点はないが、フロントスポイラーやサイドシル、リアスポイラーなどがボディ同色となり、その姿はより高級感が増した。フロントグリルに跳ね馬のエンブレムが装着されたのも、この仕様変更時からのことだ。
ミッドのV型8気筒エンジンも排気量はそのままに、より高回転型の320ps仕様へと進化。5速MTもギヤ比の見直しが行われている。348GTBはその生産期間が約1年と短く、後継車のF355にその市場を譲ることになったため、総生産台数はわずか252台である。
今回出品された右ハンドル仕様は、そのうち14台しか存在しない。走行距離が181kmという数字で、4万8300ポンド(邦貨換算約890万円)という価格は、大いに魅力的なものに思える。