ワインディングでは “まんまM3”だが……
現行型M3は、硬派さとラグジュアリィさをMらしいバランス、つまり少しだけスポーツネスが勝るようにあつらえられたモデルだった。獰猛なフロントマスクがセダンにも与えられ、よりパワフルで、より刺激的なモデルとして存在した。アルピナB3に比べても、だ。
M3ツーリングを1000km乗った感想を先にいえば、そんな獰猛さを少し抑えて、ロングツアラーとしての快適性も兼ね備えた、けれどもB3ツーリングとは一味も二味も違うスーパーワゴン、である。
街中ではフロントタイヤの存在感が強く、かなりソリッドな乗り味にM3らしさを感じずにはいられない。それでいて気を込めて極太のハンドルを回せば前輪が機敏に追従し、4WDであることなど忘れさせてくれる。ボディはワゴンであるにもかかわらず強靭さを失っておらず、大きな目地にも大きなハコはびくつかない。骨格がとても強いと感じる。
パワートレインは相変わらず扱いやすく、それでいて力強い。サウンドも豪快だ。だから、ワゴンボディであることをついつい忘れて運転に熱中してしまう。背中に空気を背負っている感じがないのだから、ワインディングロードでは“まるでM3”どころか“まんまM3”だった。
そんなことだったので、ロングツアラーとしては正直、セダンと同じレベル、B3に劣ると思っていた。しかもB3ではツーリングよりセダンの方が良くできたロングツアラーだったのだから尚更だ。
ところが面白いことに、ロングツアラーとしてのM3ツーリングの仕上がりはセダン以上で、B3やD3Sのツーリングに迫る勢いがあった。あれほどソリッドだった乗り心地は速度が上がるにつれて嘘のようにしなやかさを増した。頻繁な目地や段差をタンタンと心地よくいなし、直進安定性を失うこともない。軽く手を添えているだけでクルマがキレイに車線をキープする。クルマが道を知っているとはこのことを言う。
もちろん、B3よりも全体的に硬質なライドフィールであることは間違いない。けれどもこと長距離ドライブに関していえば、その硬さが心地よさにも感じられ、疲れることなく片道500kmを走破した。
これでサーキットでもM3セダン並みに楽しめるというのだから、M3ツーリングは最強の乗用車の一つと言っても過言ではない。