待望の復活を遂げたロータリーエンジン
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「ロータリーエンジンの復活」についてです。初めての愛車がロータリーエンジン搭載車という木下さん。役割が変わったとはいえ、復活したことは嬉しいという。ロータリーエンジンへの思いを語ってもらいました。
プラグインハイブリッドの動力源としてMX-30に搭載
「電気モーターのように回転するロータリーエンジンが、電気自動車として復活」
マツダの至宝、ロータリーエンジンの復活を知った時に、僕の頭にはそんなタイトルが浮かんでしまいました。
世界でも稀なロータリーエンジンは、繭のようなローターがユニットの中で回転することで動力を発生します。一般的なレシプロエンジンが、上下に動くピストンが動力を生み出すのとは異なり、回転運動がそのままプロペラシャフトを回転させ、タイヤを回転させるのですから、クルマの動力源として理にかなっているように思えます。
実際にロータリーエンジンは、レシプロエンジンと比較して約2分の1の排気量で同等のパワーを絞り出します。ですから、パワーユニットそのものはとてもコンパクトに仕上げることが可能ですし、それゆえに軽量なのです。
これまでマツダのスポーツカーに搭載されながら、人気を博してきました。サバンナやRX-7、あるいはRX-8といった走り自慢のクルマのパワーユニットとして、多くのマニアに支持されてきたのです。日本車として初めてル・マン24時間を制したのもロータリーエンジンでした。
ですが、エミッションの点で難題を抱えており、特に地球規模の環境意識の高まりには劣勢に追い込まれました。燃費性能や排ガスの点では難題を完璧にクリアできていません。それゆえに、スポーツカーのパワーユニットとしての使命は中断しています。
ただし、マツダはロータリーエンジン開発の手を緩めていませんでした。2023年、ロータリーエンジンをMX-30に搭載。レンジエクステンダー式のプラグインハイブリッドの動力源として復活させたのです。
MX-30のハイブリッドシステムはシリーズ式ともいわれ、走りは電気モーターに100%依存します。ロータリーエンジンは駆動輪とは直結しておらず、バッテリーに電力を貯める発電機としての機能に専念しています。いわば、ロータリーエンジンを積んだ電気自動車なのです。
古くからのロータリーエンジンファンは寂しがるかもしれません。ロータリーエンジンを高回転で炸裂させ、得られたパワーを直接路面に叩きつけて激走するシーンを想像すると、たしかに残念かもしれませんね。
軽量コンパクトなエンジン本体が電動化に貢献
ただし、ロータリーエンジンは軽量コンパクトです。競合のハイブリッドモデルが大きく質量のかさむレシプロエンジンを搭載していることを考えれば、ロータリーエンジンであることが有利でもあります。軽量なことは燃費性能で有利に働くからです。
MX-30に搭載されるロータリーエンジンはロータリーハウジングがひとつの1ローターシステムです。かつてのように、ロータリーハウジングを2段にも3段にも重ねる必要がなく、相当に軽量コンパクトに抑えることが可能になっています。排気量はわずか830cc。ロータリーエンジンが駆動輪に直接繋がっていないことは寂しくもありますが、ロータリーエンジンの最大の魅力が生かされたのだと考えると、穏やかな気持ちになりませんか?
レシプロエンジンのピストンの動きをミクロの視点で観察すれば、停止と加速を繰り返しますが、ロータリーエンジンは常に回転を続けています。電気モーターのように回ると称されるのは、まさに回転運動の賜物なのです。そしてそれがややスタイルは異なったとはいえ、電気モーターのエネルギー源として姿を変えて蘇ったことを歓迎したいと思います。
実は僕が運転免許証を取得し、初めてドライブしたのがサバンナでありロータリーエンジン搭載車でした。それゆえの感情もありますが、素直にロータリー復活を喜びたいと思います。
ちなみに、僕が初めて聞くことになった1ローターのサウンドは、腕の中で抱かれた愛猫がコロコロと喉を鳴らすようであり、優しいリズムを刻んでいました。