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フルレストア済みで5600万円! ポルシェ「356スピードスター」を愛したマックイーンでもジェームズ・ディーンでもない音楽界のレジェンドとは?

フルレストア済みで5600万円! ポルシェ「356スピードスター」を愛したマックイーンでもジェームズ・ディーンでもない音楽界のレジェンドとは?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

極上コンディションのスピードスターは、約5600万円で落札

マイケル・ラングのもとを離れたのち、2014年にベルギーに輸送されたこの356Aスピードスターは、ポルシェ本社発行の鑑定書に記載された仕様と一致するように、3年もの歳月をかけてレストアされた。

現在のボディカラーは、元色のレッド。ベージュのレザレット(ビニールレザー)インテリアもオリジナルに戻され、黒いラバー製フロアマットの下にはタンのカーペットが敷かれている。

この356Aには、1.6L・60psのタイプ616/1エンジンが搭載されているが、クランクケースは古い時期に交換され、改印されたと考えられている。またUS仕様では純正指定だった、クロームメッキされた追加バンパー+オーバーライダーのフルセットに加え、同じく北米仕様では純正のシールドビームヘッドライトを特徴とする。

そして、2016年から2018年にかけて費用を惜しまないレストアが施されたのち、現在も美しく保たれている。エンジンは以前のレストアの一環として組み直され、そののちエンジンの圧縮と走行を正しくするために、さらに2500ポンドを投じてエンジンを降ろして整備が行われている。この作業は2019年11月、英国バークシャーにある「ノウル・ヒル・パフォーマンス&ラグジュアリー」社が担当した。

今回のオークション出品者である現オーナーの管理のもと、この356は最新の12Vシステムへのアップグレード、電子式ディストリビューター、ディスクブレーキへの変更、LEDライトへの改造、始動性を向上させるためのソリッドステート電気燃料ポンプ、キャビンを保護するための非純正トノカバーの装着など、現在の路上での使いやすさを追求した数々のモディファイが施されている。

さらに現オーナーの指示により、大規模な整備と修正作業が行われ、「エクスポート56 リミテッド」社発行の請求書には、2021年から2022年にかけて総額1万6500ポンドを超える素晴らしい支出が記載されている。

くわえて、ポルシェ本社発行の真正証明書のコピー、マイケル・ラング名義の登録書類、ベルギーのポルシェ・スペシャリスト「テクニーク・ヒストリーク」による広範囲におよぶリビルドの詳細を記した請求書、2019年のエンジン再構築の請求書、そしてエクスポート56リミテッドのポルシェ・スペシャリスト、ミック・ペイシーによるメンテナンス作業の記録なども添付されている。

この極上コンディションの356Aスピードスターに対して、RMサザビーズ欧州本社は現オーナーとの協議の結果、27万5000ポンド~32万5000ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定。

11月4日の競売では、エスティメートのほぼ中央値にあたる30万875 ポンド。日本円に換算すれば約5600万円で落札されることになった。

ひと頃は50万ドル前後で取り引きされることもあった356スピードスターだが、ここ1~2年は若干市場が沈静化した傾向もあるようで、30万ドルは妥当なハンマープライスといえなくもない。

いっぽう、この個体は現在の使用に備えた複数のモディファイが施されているのだが、オリジナリティが優先されがちなマーケットにおいては、減点材料にもなり得る。それでも一定の支持が得られたのは、やはり音楽界のレジェンドと紡いだヒストリーがあってのことと思われるのだ。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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