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ゴブジ号よさようなら、ツインエアもさようなら。退院後はきっと完調になってもどってくるはず…!?【週刊チンクエチェントVol.26】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之/Stellantis N.V

ありがとう、ツインエアエンジン!

そんなわけで今回の暇ネタは、ツインエア・エンジンのお話だ。そう、現行チンクエチェントやパンダに積まれている、水冷直列2気筒マルチエア・ターボのこと。そう遠からずドロップオフになるだろうとは思ってたのだけど、ついに2023年10月末をもって生産終了となってしまったのだ。カーボンニュートラルが最優先事項のようになり、自動車の電動化が日増しに進んでいく今の時代。これまでクルマ好きを魅了してきた「名機」と呼ばれる内燃エンジンが次々と姿を消していくことになるのは既定路線みたいなものだけど、それにしても残念なお話である。はっきりとした個性を持ち、そこでファンをニンマリさせるような素敵な内燃エンジンがひとつ、もう新車では手に入らなくなってしまうのだから。

ツインエア・エンジンがデビューしたのは、2007年のフランクフルト・モーターショー。パンダをベースにした環境配慮型のコンセプトカーに搭載されてのお披露目だった。排気量が1Lを下回る直列2気筒という考え方は、主流になりはじめていたダウンサイジング・コンセプトの内燃エンジンの中でもかなり突き進んだもので、大きな期待と、そして同じくらい大きな懐疑を生んだのだけど、その2年半後の2010年のジュネーヴ・ショーで生産型が発表されると、期待の方が圧倒的に大きくなった。チンクエチェントに搭載されての展示だったからだ。先祖にあたるヌォーヴァ チンクエチェントの本当の意味での再来のように思えたのだ。フィアット・ファンは、そりゃ喜ぶでしょ。

その後のことは、皆さんも御存知のとおりだ。本国ではいくつか仕様のある中、日本市場に投入されたボアφ80.5×ストローク86.0mmの875ccインタークーラー付ターボは、音がでかい振動がでかいと揶揄されたりしながらも、それから10年以上にわたって愛され続けてきた。

500/500Cとパンダに搭載されたこのエンジンは、気筒数と排気量のほかに、“マルチエア”と呼ばれる油圧式吸気バルブ開閉機構が備わるのが特徴だ。電子制御された油圧ピストンが吸気側のバルブの動きをつかさどり、開閉量やリフト量を緻密に自在にコントロールしていくという機構だ。いうまでもなく低回転域でのトルク不足、全体的なパワー不足、アクセルペダルの踏みすぎによる燃費の悪化というような、小排気量エンジンのネガ解消を目的としている。

このエンジンが市場に出てどんな評価を得たかといえば、デビュー翌年のインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーにおいて、“1L未満のベスト・エンジン” 、“ベスト・ニュー・エンジン” 、“ベスト・グリーン・エンジン”、そして最高賞である“インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2011”の4つの賞を獲得した、というのがわかりやすいだろう。しかも「ダウンサイジングがパフォーマンスの低さを意味するものじゃないことを証明した」「驚くべきパフォーマンス」「史上最高のエンジンのひとつ」といった具合に、選考委員たちからは大絶賛ともいえるコメントをたくさん集めてもいる。

日本にもたらされたツインエアは、最高出力85ps/5500rpm、最大トルク145Nm/1900rpm。燃費はチンクエチェントの場合でWLTCモード19.2km/L。排気量や気筒数を考えれば立派なものだ。けれど、このエンジンの魅力は数値の中にだけあるわけじゃない。

たとえば、ポロポロポロポロ……というような、2気筒エンジンならではの独特のリズムを感じさせるサウンド。たとえば、21世紀の内燃エンジンとは思えないくらいの、ハッキリ伝わってくる有機的な振動。たとえば、低速域でのビックリするくらい粘っこいトルク。たとえば、アクセルペダルを深く踏み込んでいってからの、数値を遙かに超えたような逞しい加速。たとえば、馬鹿っ速とまではいえないしスポーティだともいえないけど、それなり以上に気持ちよさを感じさせてくれる速度の伸びと、望外の高速巡航性の高さ。

まだまだある。気筒数が少なくて重量が軽いから、クルマの鼻先が軽くてノーズの入りが良い。つまり、ハンドリングのよさにも貢献している。燃費だってだいぶいい。WLTCモードで19.2km/L、市街地モード14.4km/L、郊外モード19.7km/L、高速道路モード22.0km/hっていうデータはわりと簡単にマークできちゃう。僕は一度、これはまぁあくまでも高速道路をゆっくり流して長距離走行をしたときのことだからあんまりアテにはならないんだろうけど、わずかな間ではあるものの何と28km/Lという数字が出てビックリしたことがある。

とにかく、あちこち濃厚なのだ。

しっかりしたキャラクターを持っていて、走らせるとなかなか楽しくて、経済的でもあって、多方面にわたって柔軟性を発揮してくれるエンジン。僕はツインエアに対してそういう印象を持っていて、だから現代のエンジンの中ではベスト3に入れられるくらい大好きな内燃エンジンなのだ。

そんなこんなで現時点では生活環境的にこれ以上はクルマを増やせないから実現できてないのだけど、いずれツインエアを積んだチンクエチェントをアシにしたいとずっと思ってきた。

新車のツインエアエンジンを最後に楽しめる魅力的なモデルが登場

ところが、ここへきて嬉しいといえば嬉しい、けど個人的には何も身動きできない自分にとっては絵に描いた餅を見るに等しいクルマの上陸が発表された。これで何度目になるのか覚えてはいないのだけど、季節が近づくとほぼ必ずといっていいくらい導入されるフィアット パンダの限定車、パンダ クロス4×4が200台発売されることになったのだ。メーカー側も“パンダの最終モデル”と公言していて、しかも車体色がフォレストグリーンとマエストログレーという渋めのチョイス。価格は316万円(消費税込)。……魅力的としかいいようがない。

パンダの4×4って、じつはなかなか凄いクルマ。それは歴代のすべての四駆パンダに当てはまる言葉なのだけど、現行モデルはジープ レネゲード譲りの4WDシステムを持ち、それがツインエア・エンジン+6速MTという組み合わせ。ひとつ前の冬に限定販売されたパンダ クロス4×4でおよそ700km、東京を出発して雪山を走ってくるという日帰りロケをしたことがあったのだけど、高速巡航性はなかなか高いし背が高いわりにはコーナーでのロールもいい具合にコントロールできてて曲がるのが意外や楽しいし、雪道に入ってからもツインエアの粘っこく柔軟なトルクとジープ系4WDならではの頼もしい駆動性能のコンビネーションが、安心&安全にして快適&愉快なドライブを味わわせてくれる。しかも車体が小さくて、あらゆる意味で気軽に走れるし、扱いやすい。いってみれば、ロングも楽々こなせちゃうイタリアのジムニー、みたいな存在なのだ。

ぶっちゃけ、パンダ クロス4×4じゃなくてフツーのパンダ4×4の中古でいいから欲しいな、と何度も思ったくらい。いや、今も熾火のように心の中でくすぶっている。その点では、500ツインエアと同じだ。

500のツインエアもパンダの4×4も、パワーユニットがツインエアだからこそ、クルマとしての魅力や説得力が高いのだと思う。500ツインエアはショールームの在庫かぎり。パンダ クロス4×4はたった200台の限定販売。新車のツインエアが欲しいという人にとっては、今こそ最後のタイミング。僕と同じように気持ちがピクピクしてる人の中で、状況と環境が整ってる人、ここで行かなくていつ行くんだ? なタイミングですぞ。

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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