フォルクスワーゲン ラリーゴルフG60
アウト・エ・モト・デポカでは、一般ディーラーの展示販売コーナーはホール内のほか、より出展料の安価な屋外展示も行われている。ここでは、ヤングタイマー車両を中心に1万ユーロ以下の比較的リーズナブルなクラシックカーが展示・即売されており、それはそれでイベントの名物のようにもなっているのだが、今回はこの場にあまりそぐわない、小さな大物ヤングタイマーに遭遇・刮目することになった。
FIAグループAでの世界ラリー選手権エントリーのため、フォルクスワーゲン社が自ら「ゴルフII」を徹底的に仕立て直した「ラリーゴルフG60」である。
このモデルは、当時ゴルフに設定が始まっていたビスカス式フルタイム4WDモデル「シンクロ」に、水冷直列4気筒SOHC+「Gラーダー」機械式過給機つきエンジンを搭載。これは「コラードG60」用をベースとしていたが、過給係数「1.7」を考慮して1763ccまで縮小していた。
また、ボディも専用ブリスターフェンダーによりワイド化。エアロパーツも実戦向きのワイルドなものが装備され、BMW E30系「M3」などと同じストイックな緊張感が、じつに魅力的な1台といえよう。
グループAホモロゲーションモデルとして5000台が限定生産され、生来の目的であるラリーカーも開発。1990年に実戦デビューしたものの、WRC選手権では「ランチア デルタHFインテグラーレ」の牙城を崩すには至らず、残念ながら目立った活躍はなかった。
また正規輸入されなかったこともあって、日本国内で見る機会はほとんどないだけに、今回の遭遇には驚きを禁じ得なかったのだ。
ランチア スコーピオン
こちらも野外の展示スペースで、車載トレーラーごと「For Sale(売りたし)」となっていたのがランチア「スコーピオン」。ランチア「ベータ モンテカルロ」の北米輸出専用モデルである。
ヘッドライト光軸高を北米の法規に適応させるため、少しだけ起き上がるセミ・リトラクタブル式に改装したほか、同じく法規にしたがって丸型のシールドビームに変更。前後のバンパーも、対衝突対策を施した巨大な「5マイルバンパー」となった。
また、ミッドシップに搭載されるエンジンについて、生産当時には北米の排ガス対策のために排気量ダウン(2L→1.8L)と大幅なパワーダウンを強いられていたことから、のちにオリジナルスペックのモンテカルロ仕様に戻した個体も多いと推測されるのだが、今回遭遇したクルマは、結果として生来のスコーピオン仕様のまま良好なコンディションが維持されているようだ。
くわえて、本国・欧州版モンテカルロではアバルトとの関係をことさら強調することはなかったが、こちらはアバルトの象徴であるサソリを意味する英語「スコーピオン」の名を堂々と掲げていたことも特筆すべきトピックといえる。
ちなみに、今回一緒に販売されていた本国版モンテカルロとUS仕様スコーピオンとも、この会場での張り出し価格は2万2900ユーロ、日本円に換算すれば約370万円であった。
ランチア ジョリー
今回のアウト・エ・モト・デポカ2023では、ディーラーブースとクラブブースの双方でランチアが大豊作だったのだが、なかでも筆者がもっとも興味を持ったのは、ホール内のクラブブースで見かけた可愛らしいキャブオーバー型バン。ランチアがフィアット傘下に収まる前、1959年から1963年にかけて生産した商用車「ジョリー」である。
この時代のランチアでもっとも小さな「アッピア」をベースとしたジョリーには、バンまたはトラックが用意され、ともに36.5psを発生する狭角V型4気筒1090ccエンジンを搭載。最高速度は98km/hに達したという。
4年間で3011台が生産されたのち、上級車「フラヴィア」をベースとし「スーパージョリー」と名づけられたより大型の後継モデルへと代替わりした。
ランチアは、当時からどちらかといえば高級車を得意としていながらも、第二次世界大戦の前後には大型トラック「エザタウ」を頂点とする商用車の製造にも乗り出していた。
それでもキャブオーバー型のバンながら、独特の上品さや清楚なエレガンスを体現しているジョリーには、ランチアの矜持のようなものを感じてしまったのだ。