イタリアのクラシックカー界の名士たちも、新たな仲間に拍手喝さい
2023年までのヴェネト州パドヴァからボローニャに会場を移した「アウト・エ・モト・デポカ2023」では、ASIが「ビレッジ(村)」と称して巨大ホールの半分を占有するブースを設け、そこに傘下のクラブやイベントのブースをそれぞれ配する。そして有力イベントである「ジーロ・ディ・シチリア」も、かなり大規模なブースを設けることになった。そこでアウチェッロ会長から「一角にジーロ・デッリゾラ沖縄のコーナーも設けるので、実行委員長の矢口可南子さんもボローニャまで来ませんか……?」というオファーが。
仲介役の蓑さんも全日随行してくれるとのことだったが、イタリアでは徒手空拳の矢口さんは、曲がりなりにもイタリア経験があり、パドヴァ時代のアウト・エ・モト・デポカにも何度か訪問したことのある筆者に白羽の矢を立て、ともにイベントに赴くことになった。
こうしてボローニャまでたどり着いたわれわれながら、正直なところイベントが開幕する直前まで、いったい何が起こるのかまるで未知数だった。
ブース内で用意されたコーナーは予想外に広かったものの、沖縄観光コンベンションビューローからお借りした美しい「琉装(沖縄の民族衣装)」を、現地でご用意いただいたマネキン人形に着付け。沖縄紋様の風呂敷をテーブルクロスのように広げたカウンターに、一対の小さなシーサーとイベントパンフレットを置くと、それなりに立派なコーナーとなった。
さらに「沖縄の美しい海と豊かな自然、琉球王国の時代からアジアの中心として独自の歴史・文化を育んできた沖縄の魅力を、ラリーイベントというかたちを通じて伝えたい」という矢口実行委員長の熱い思いは、大会初日からアウチェッロ氏はもちろん、アルベルト・スクーロ会長をはじめとするASI首脳陣にもひしひしと伝わったようで、彼女は会場の行く先々で大人気。くわえてイタリアのクラシックカー界の名士のお歴々や、欧州各国から遠く日本に至るエンスー仲間たちも、次々とジーロ・デッリゾラ沖縄のコーナーに訪れてくれた。
そして「アウト・エ・モト・デポカ2023」3日目となる土曜日。マネキン用のスペアとして持っていった琉装に身を包んだ矢口さんは、驚くほどに大掛かりで華やかなASI特設ステージに登壇し、蓑さんの通訳のもとプレゼンテーションを敢行。気づけば、会場は満場の拍手に包まれ、極東の新しいクラシックカーラリーを祝福してくれていたのだ。
日本のクラシックカーラリーの開祖ともいえる「ラ・フェスタ・ミッレミリア」を筆頭に、イタリア伝統のイベントの日本版として誕生したラリーは、いくつか先例はあった。しかし、まったくの独力で発足した日本のイベントが、有名な海外イベントと対等の関係を結び、ともに成長してゆこうという姿勢を明快に示した事例は、ながらく日本のクラシックカー界を俯瞰してきた筆者にとっても、ほかには思い出せない。
この姉妹イベント締結は、日本の自動車趣味界、ひいては自動車文化にとっても一つのマイルストーンになり得ると、遥かボローニャにて実感したのである。