Z34は登場してから15年が経つロングセラーモデル
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは日産「RZ34型フェアレディZ」についてです。2022年に大幅改良を受け、劇的に進化したRZ34型フェアレディZ。フルモデルチェンジのように見えますが、じつはZ34型をベースにしたビッグマイナーチェンジモデルなのです。その理由と、RZ34に対する木下さんの想いを語っていただきました。
2022年に大幅テコ入れでRZ34型へ進化
人の興味とは移ろいやすいもので、あれほど華々しくデビユーした新車も数年も経過すると話題に上がらなくなるものです。
「おっ、あれって新型じゃない? カッコいいねぇ」
デビュー直後のニューモデルにあれほど興奮したのに、見慣れてくると、むしろ粗が目についてきたりして、「テールのデザインが不自然だわ」だとか「意外と小さいのね」なんて酷評するものも世の常です。つくづく人間の気持ちって冷たいものだと辟易します。
だから自動車メーカーは、鮮度を保つために定期的にフルモデルチェンジをしたり、マイナーチェンジをカンフル剤に、ユーザーの飽きを防ごうとします。技術の進歩もめざましいので、次々に新鮮なテクノロジーを注がないと買ってもらえないわけです。
一般的にフルモデルチェンジのサイクルは、4年とされてきました。マイナーチェンジは2年ごと。最近はその間隔が伸びてきたものの、おおむね2年とか4年間隔でカンフル剤を注入するのがお決まりのパターンです。
そんな中、驚くほど長寿のモデルがあります。日産「フェアレディZ」がそれで、最新のZ34型が誕生したのが2008年、あれから15年も経過しているのに、まだ現役で生産されているというのだから腰を抜かしかけますね。
しかも2023年8月には「フェアレディZニスモ」なる新グレードを追加すると発表しています。さらにいうならば、世界的な半導体不足があり、今日オーダーしても納車は2年先だというから長寿に違いありません。いまだに現役でピッチに立つキングカズ並みの奇跡ですね。
フルモデルチェンジに近いくらいの大幅改良でファンを魅了
ただし、ちょっとしたカラクリがあります。詳しい方なら勘づいているかもしれませんが、2008年にデビューしたフェアレディZと2022年に誕生した最新のフェアレディZは、顔や形が異なります。ですが、型式は共通しているのです。ともに「Z34」型に属します。
便宜上、2008年デビューのZ34型が前期型、2022年デビューの最新型をZ34型の後期型と呼ぶことで区別していますから、確かにマイナーチェンジのようではありますが、エクステリアデザインもインタリアデザインも別物なのです。まったくのニューモデルに見えます。僕らもニューモデルとして扱っています。
「それじゃ、新型ですね」
と考えるのは正当な感覚です。
ですが、国土交通省への届け出では、どちらもZ34型ですが、正確に表記するならば新型は「RZ34型」となります。R=リファインを意味します。あえていうならば、ビックマイナーチェンジですね。姿形はことなれど、マイナーチェンジの範疇に属するのです。
なぜならば、最新のRZ34型フェアレディZはZ34型の骨格を共有しています。それによって国土交通省へ届けなければならないいくつかの要件を省略することが可能になります。無駄なテストや検査を省くことによって開発テンポを早めることができますし、コスト抑制にもなります。
さすがにスポーツカーにただならぬ愛情を注ぐ日産でも、大量に売れる見込みのないニッチなスポーツカーに膨大な開発費を投入することははばかられます。かといって、スポーツカーから撤退しては日産ファンからソッポを向かれかねません。苦肉の策というと酷な表現ですが、型式を踏襲しつつも、デザインを一新することで鮮度を保つ手法を採用したわけです。
ともあれ、エンジンはフェアレディZ史上最強の405psユニットを搭載していますし、走りも獰猛で素晴らしい。現代でも通用する走行性能を備えているのもたしかです。Z34型フェアレディZはデビューからは15年も経過してはいますが、いまでも現役で通用します。まさにキングカズのようですね。
そもそもフェアレディZは、劇的に変わることのない存在です。フェアレディZはフェアレディZです。この唯一無二の存在を変えることはむしろ無粋であり、このまま生き続けてほしいモデルなのです。
ですから、フルモデルチェンジなのかマイナーチェンジなのかという議論こそ無粋ですね。このままRZ34型として永遠に生産されてほしいものです。