フロリダに新車で納車された1台
2023年11月25日、RMサザビーズがドイツ・ミシュヘンで開催したオークションにおいてメルセデス・ベンツ「560SL」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
19年もの長きにわたって生産が継続されたシリーズ
ドイツ語で「Sport Leicht」(シュポルト・ライヒト=軽量スポーツ)を意味する、「SL」の称号が与えられたモデルが、メルセデス・ベンツから最初に販売されたのは1954年。ガルウイング式のドアを持つ「300SLクーペ」がその始祖となるモデル(W198型)である。メルセデス・ベンツはその後、それに代わる2代目のSLとして、パコダ・ルーフをデザイン上の大きな特長とするW113型SLを1963年に発表。それは1971年まで生産が継続され、シリーズ・トータルで4万9000台弱がデリバリーされた。
今回紹介する1989年式のメルセデス・ベンツ560SLは、R107型と呼ばれるもので、1971年から1989年まで、じつに19年もの長きにわたって生産が継続されたシリーズである。その中でも1989年式と最終モデルである出品車には、多くのメルセデス・ベンツのファンから熱い視線が注がれたことは想像に難くない。それがミュンヘン・オークションに姿を現したことにも大きな意義があった。実はこの560SLというモデルは、新車でデリバリーされたのはアメリカ、日本、オーストラリアの3国のみで、ヨーロッパの各国では入手できなかったのだ。
R107型SLのモデルラインナップは複雑だ。クーペボディのC107をまったく別のものと考えても、ファーストモデルとして1971年にまず登場したのは450用の4.5Lエンジンを搭載する350SL。
1973年にはそれは450SLに改称される一方で、燃費志向の直列4気筒仕様、280SLも登場する。さらに1980年のマイナーチェンジでは軽量なアルミニウム製ブロックを採用したV型8気筒エンジンが新採用され、V8モデルは380SLと500SLに集約された。
1986年のマイナーチェンジでは、直列6気筒モデルの280SLに新型の3Lエンジンが搭載され、車名も300SLに。V8モデルも420SLと500SLというラインナップに変更されている。
そしてもうひとつの隠れた存在だったのが、1986年に発表された5546ccのV型8気筒エンジンを搭載する「560SL」だったのだ。最高出力の235psは、ヨーロッパで販売された500SLよりわずかに5psほど低いスペックだが、これは年々厳しくなりつつあった排出ガス規制への対応によるものだったことは言うまでもない。
パロミノ・レザー・インテリアにブラックのボディカラー
RMサザビーズのミュンヘン・オークションに出品された560SLは、1989年10月に、アメリカ・フロリダに新車で納車されたもの。ニューヨーク州ロングアイランドのボールドウィンで実質的なファースト・オーナーに引き取られるまで、約2年間この560SLはフロリダの地にあった。
パロミノ・レザー・インテリアにブラックのボディカラー仕上げで、メルセデス・ベンツのジンデルフィンゲン工場から出荷されたと記録されているこの出品車は、現在でもそのカラーを素晴らしいコンディションで残している。エアコンを備えたオートマチック・クライメート・コントロールやカセット・プレーヤー、ステアリングホイールにはエアバッグも装備されている。
2009年にアメリカから輸出されたと考えられているこの560SLは、その後メーターをkm表示に交換。そのコンディションの素晴らしさが高く評価されたのだろう。3万9100ユーロ(邦貨換算約630万4000円)での落札となった。これならば、まだまだ何とか手の届く、趣味クルマの一台といえそうだ。