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新車未使用のフェラーリが600万円台のなぜ?「モンディアルt」はクーペでもカブリオレでも圧倒的な不人気車種でした

新車未使用のフェラーリが600万円台のなぜ?「モンディアルt」はクーペでもカブリオレでも圧倒的な不人気車種でした

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

2台ともに超低走行で、まるで新車のようなコンディション! でも……

フェラーリ モンディアル史上、もっともドラスティックな進化を遂げた「t」のうち、クーペは858台が生産されたといわれている。そのうち、右ハンドル仕様としてフェラーリのファクトリーをラインオフしたのは45台にすぎない。「ファクトリー・フレッシュ・コレクション」に新車納車されたのは、その中の1台である。

この時代におけるフェラーリの定番「ロッソ・コルサ」のボディに「クレマ(クリーム)」色のコノリー社製レザーインテリアで仕立てられたこの車両は、初代オーナーであるアルフレッド・タン氏に引き渡されて以来、ずっとコレクションとして保管されてきた。

車両には、フェラーリの厳選されたドキュメントやマニュアルが収められたレザーフォリオが付属し、ファクトリーデータによればエンジンはマッチングナンバーのままとのことである。

いっぽうモンディアルtカブリオレは、1989年から1993年にかけてわずか1017台が製造されたうちの1台。シャシーナンバーは#96504と記されていることからも推測されるように、1993年に製作された最終期の生産分であり、この時代にはオプションで選択できた仏「VALEO」社との共同開発によるクラッチレス5速マニュアルのトランスミッション、通称「ヴァレオマティック」が組み合わされている。

こちらもホンセ・モーターズによって新車オーダーされたあと、そのまま30年以上にもわたってファクトリー・フレッシュ・コレクションに所蔵されている。ほとんどドライブに供される機会が無かったため、RMサザビーズ社公式オークションカタログ作成時のオドメーターはわずか254kmを刻んでいたに過ぎない。くわえて、厳選されたフェラーリのドキュメントやマニュアルを収めたレザーフォリオが付属されるのも、tクーペと同じである。

RMサザビーズ欧州本社とファクトリー・フレッシュ・コレクションは協議の末に、モンディアルtクーペには10万ポンド~15万ポンド。tカブリオレには12万ポンド~17万ポンドという、このモデルとしては破格ともいうべき自信たっぷりのエスティメート(推定落札価格)を設定。ともに出品者サイドの自信を示すように「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」での出品となった。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額を問わず確実に落札されることから会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むこともあるのがメリット。しかしその一方で、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうという落とし穴もある。

そして実際の競売では出品サイドの賭けが裏目に出たのか、tクーペは3万4500ポンド、tカブリオレは3万9100ポンド。つまり、日本円に換算すれば前者が約630万円、後者は約710万円という、エスティメートの約1/4にもおよばない価格で落札されてしまうことになった。

とはいえこの落札価格は、国際マーケットにおけるモンディアルtの相場価格からみると常識的な範疇にとどまっているのも間違いないところ。たとえタイムカプセルから取り出したかのごとく、新車同様で超低走行といえども、特別に人気の高いモデルでもない限りは、市場価格の数倍のハンマープライスというわけにはいかない。それが実情のようだ。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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