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ヒッチコックが映画『鳥』でアストンマーティンを劇中車に使った理由を推理してみた。サスペンスの神様が仕込んだ伏線とは【映画とクルマ】

映画『鳥』の劇中車のアストンマーティンDB2-4 Mark 1

傑作と傑作の妙なる競演

映画に登場する名車をストーリーとともに紹介する「映画とクルマ」。今回は、1950年代では世界屈指のスーパーカーが登場し、パニックムービーの金字塔として知られるヒッチコック監督の『鳥』をお届けします。

パニックムービーの開祖のひとつ

現代映画における人気ジャンルとして確固たる地位を築いている「パニックムービー」。宇宙からの侵略者や大規模な天変地異、あるいは近年ではテロなどの不可避的危険から逃げ惑う群衆の人間模様を描いた作品群を指す。じつはこの開祖のひとつとも言われる傑作に、素晴らしいスポーツカーが登場していることをご存じだろうか?

その傑作とは「サスペンス映画の神様」とも称される巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督が1963年に制作した『The Birds』。つまり、日本でも抜群の知名度を誇るヒッチコックの『鳥』である。そしてこの作品に登場するのが、淡いメタリックグレイに塗られたアストンマーティン「DB2-4ドロップヘッドクーペ」なのだ。

舞台はカリフォルニア州の海に面する小さな街。サンフランシスコ在住の裕福な女性、メラニー(ティッピ・ヘドレン)は、ふとしたきっかけで知り合った若き弁護士、ミッチ(ロッド・テイラー)に興味を抱き、彼の実家があるこの街を訪れる。しかし、理由も解らぬまま一羽のカモメに襲われたことから、誰も予想しえない悪夢は始まった。野鳥の大群が不条理に市民を襲い、ついには多数の死傷者が出ることになってしまったのだ……。

スキルと体力のあるドライバーには頼もしいスポーツカー

パニックムービーの金字塔として知られるこの作品にて、メラニーの愛車として銀幕を飾るのが、アストンマーティンDB2-4ドロップヘッドクーペ。かのW.O.ベントレーが設計した直6 DOHCエンジンを搭載する、1950年代では世界屈指のスーパーカーである。そして、一度でもこのクルマに乗ったことのある方ならご存知だろうが、とにかく骨太と言うほかない、ヴィンテージ期の乗り味がそのまま残ったような高性能スポーツカー。すべての操作系が重くて、しかも繊細なテクニックを要する一方、然るべきスキルと体力のあるドライバーにとっては高貴で頼もしいスーパースポーツだったのだ。

英国出身の知識人らしく、クルマにも相当な知識のあったはずのヒッチコック監督が、なんらの予備知識も無いままアストンマーティンDB2-4ドロップヘッドクーペを劇中に登場させたとは到底思えない。傍目に映るメラニーは、いわゆるセレブとして気ままに遊び暮らしているようだが、じつは知性に優れるとともに、何より逆境を自身の力で切り抜けようとする芯の強い女性であることを、「アストンマーティンDB2-4に乗っている」という設定で表現した。つまり、「サスペンスの神様」が張り巡らせた「伏線」のひとつであったと考えて然るべきなのだ。

物語の結末も不明瞭で、公開当時は物議を醸しつつも、今や歴史的傑作と称されるこの作品において、アストンマーティンの登場は、ある意味最も明確なメッセージとも感じられてしまう。ここにも傑作と傑作の妙なる競演があったのだ。

劇中車:アストンマーティンDB2-4 Mark 1
生産年:1953年
DB2を2+2座として登場したDB2-4。エンジンはDB2からの踏襲で1954年には140psへと強化された。

『The Birds/鳥』
公開年:1963年
上映時間:119分
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ロッド・テイラー、ジェシカ・タンディ、スザンヌ・プレシェット、ティッピ・ヘドレン

【動画】「The Birds」に登場する「アストンマーティン」を観る

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