見かけることはまずない希少な1台
2023年11月25日、RMサザビーズがドイツ・ミュンヘンで開催したオークションにおいてホスヒャート「B300 ガルウイング」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
「300CE」をベースにガルウイング化
1980年代といえば、ドイツでは多くのチューニングメーカーが独自のアイデアと技術力で、さまざまなモデルを積極的に世に送り出していた時代だった。とくにAMGに代表されるメルセデス・チューナーの勢いは凄まじく、この時代にブランドとしての基礎を固めたからこそ、1990年代、2000年代と、彼らは大きな成功を収めることができたのだともいえる。
そんなメルセデス・チューナーの多くは、2009年に誕生する「SLS AMG」よりはるか以前から、あの有名な「300SLクーペ」のガルウイングのデザインを現代に再現しようと模索していた。
最初にそれに挑んだのはスタイリングガレージで、彼らは「C126」(Sクラス・クーペ)をベースに「500SGSガルウイング」を発表。さらに10年後には、ホスヒャートが、メルセデス・ベンツからリリースされたばかりの「C124」(ミディアムクラス・クーペ)をベースとしたガルウイングモデルの製作を行っている。
さらに、きわめて希少な「B300」とネーミングされたこのモデルは、メルセデス・ベンツの「300CE」をベースとしたもの。ただしそのフロントマスクは、R129型SLのそれを流用したもので、前面から見るそのスタイルは、より洗練されたものに見える。
さらにCピラーも25センチほど前方に拡大され、後席へのアクセスも可能にする、幅が1.66mという巨大なガルウイングドアを受け入れるためにシルを強化するなど、構造面でも確実な強化が施された。
ちなみにフロントシートはR129から流用されたもの。インテリアはそもそも新車の300CE時代にはアストラル・シルバーにブラックというカラーコンビネーションだったが、それはホスヒャートの手によって、ツートーンのパープル・レザー・インテリアとボルナイトという仕様にリファインされた。
300台生産のはずが……
フロントに搭載されるエンジンは、こちらもR129から移植された3Lの直列6気筒DOHC 24バルブエンジンで、ホスヒャートではさらにギャレット製のツインターボを装着。モーゼルマンの冷却システムや空冷式のインタークーラー、このモデルのために専用設計されたエグゾーストシステムなどを装備した。
結果得られた最高出力と最大トルクは、それぞれ320ps、400Nm。ツインターボによるターボラグの解消で、ワインディングでもつねにスポーティな走りを楽しむことが可能だった。なにしろ最大トルクの400Nmは、2000〜5000rpmというワイドな回転数で発揮されるのだから。
1989年のフランクフルトショーで発表されたB300は、たちまち大きな話題を呼び、当時18万6000ドイツマルクとされた価格は、V型12気筒エンジンを搭載したSクラスより6万ドイツマルク以上高い数字だった。ホスヒャートはB300を300台生産する計画を立てるものの、実際に販売されたのは11台のみ。
今回RMサザビーズのミュンヘン・オークションに姿を現したのはそのうちの1台であり、2023年には総額で1万6216ユーロ(邦貨換算約263万円)相当の整備と7783ユーロ(同126万円)に及ぶペイント補修、そして4771ユーロ(同77万円)をかけたレザー修理と再カラーリングが施されたという。注目の落札価格は45万5000ユーロ(同7370万円)。
これはRMサザビーズの予想落札価格を15万ユーロ(同2430万円)以上も上回る数字で、ミュンヘン・オークション全出品車の中でも7番目にランクされる落札となった。