電動化しても変わらない「ポルシェの矜持」
この日、PEC東京の周回コース(2.1km)で助手席に同乗する機会が与えられた。インテリアには718の面影はなく、まさにレーシングカーの様相だ。助手席の足元にも大きなバッテリーが置かれている。それを避けるようにして着座する。事前に万が一の際には、感電しないように車外へとジャンプアウトするインストラクションをうける。
ドライバーは、ポルシェのワークスドライバーであり開発ドライバーも務めるマルコ・ゼーフリート氏。通常は全開走行が禁じられているPEC東京の外周コースにいきなりアクセル全開でコースインする。まだ熱の入っていないスリックタイヤがスキール音をあげる。人工的なエンジンサウンドなどの演出は一切加えていないという。
トランスミッションは1速なのでシフトアップ&ダウンといった変速音はないが、モーターやインバーターの音が加減速に連動するのでエンジン音がないことへの違和感はそれほどない。何より前後にモーターを搭載する4WDの電気自動車ゆえ、コーナーの立ち上がりでもラグタイムがなく瞬時に加速し、直線の少ないこのコースではつねに高Gにさらされる。想像していた以上に、いや猛烈に速い。今回経験できたタイムアタックモードでは、すでにタイプ992の「911 GT3カップ」をも上回る性能を発揮するというのも頷ける。
現段階における「GT4 eパフォーマンス」は、1スティントあたり25~30分間のレースを911 GT3カップと同等のタイムで走行する性能をすでに達成しているという。しかし、まだ世界に2台しかないプロトタイプカーであり、価格はもちろんのこと、走行するためはエンジニアやメカニックなど最低6名のスタッフが必要になるなど実用化への課題は多い。将来的には経済面や整備面など、現在のカレラカップと同等の予算や人員で参加できるものを想定する。
911カップとGT4 eカップが併催される可能性も!?
ポルシェの開発チームの来日の狙いは、世界中のカスタマー、カレラカップ参加者たちにこのプロトタイプを見てもらい意見をもらうことという。2022年から2024年までをツアーフェーズとし、世界中をまわってお披露目ツアーを敢行している。そして2025年には、次期718シリーズと並行して開発される次期型プロトタイプレーシングカーの開発に着手。その後、いつとは明言されなかったが、新たなエレクトリックカスタマーレーシングシリーズを立ち上げるという。
ちなみにその時点で現在のカレラカップが消滅するというわけではないようだ。ポルシェのオリバー・ブルーメCEOも、ポルシェのラインアップにおいて最後まで内燃エンジンが残るのは911になるだろうという主旨の発言をしており、カレラカップとGT4 eカップが併催される可能性ももちろんある。
ポルシェのカスタマーレーシング部門のマネージャーであるオリバー・シュワブ氏はこう話していた。
「モータースポーツは、創業以来、ポルシェのDNAに刻まれているものです。これまでもずっと量産車とレースカーには相関性があり、互いに影響を与えながら車両開発を行ってきました。いま電動化という課題に直面するなかでモータースポーツはどう変わっていくのか、どんな役割を果たすことができるのか。われわれは新たにエレクトリックカスタマーレーシングを開拓していく必要があります」
電気自動車の時代になっても変わらないというポルシェの矜持を感じる。