廃車寸前の流麗4ドアハードトップを救出せよ!?
旧車やネオクラシックと呼ばれる古い車両は、その個体によって様々な歴史がある。歴代オーナーらによって大切に乗り継がれる個体もあれば、「福岡キューマルミーティング」の会場で発見したホンダ「アスコットイノーバ」のように、解体屋のストックヤードで朽ち果てていく時間をひたすら待つだけの個体など。ホンダの古いクルマが置いてあるという友人からの情報を元に、救出作戦を敢行した古賀さん。その行動力のおかげで、希少なアスコットイノーバが現代に蘇ったのだ。
スタイリッシュなセダンとして誕生
決して人気車種ではなかった。しかも自社内で「アコード」という強力なライバル姉妹車が存在したから、なおさらである。ホンダ「アスコット」と「アスコットイノーバ」は、両車種合わせても1989年から1997年という短い年月で、ひっそりとその役目を終えている。
アスコットの上級版として登場したアスコットイノーバは、1992年3月から1996年12月の約4年間販売された。エンジンは排気量1997ccのF20Aと、排気量2258ccでVTECを装備しないH23Aの2種類を用意。ボディはイギリス版アコードをベースとし、ハードトップへと変更。窓枠なしのいわゆるサッシュレスドアを持つスタイリッシュなセダンとして誕生した。
当時のテレビCMで使われたキャッチフレーズは、「ハードトップイノベーション」。イノーバの語源となった「イノベーション=革新、刷新」と掛け合わせているのは明白で、ホンダはこの4ドアハードトップの美しいボディスタイルで、当時の5ナンバーセダン界隈での覇権争いに、勝負をかけたのだった。
程度の良し悪しは関係なく100%買い取りが条件だった
そんな車種だけに、中古車の現存台数が少ないのは当たり前だ。友人からの情報を元に、この「アスコットイノーバ」のオーナー古賀健一郎さんが、噂のストックヤードへと馳せ参じたのは言うまでもない。
「この車両はそのヤードの一番奥に停まっていました。周りにはツルが伸びていて、見るからにこのまま廃車にされそうな雰囲気でしたね。でも、アスコットイノーバは貴重ですし、オプション装備のサンルーフが付いていましたから。グレードは不明だったけど、サンルーフに食いついたような感じです(笑)」
どれだけ自分がこの車両を欲しいのか。古賀さんは、ありったけの情熱を持ち主である業者に伝達した。その結果、このような返答を得たのだ。
「ヤードの最奥から引き上げるため、時間がかかる。しかも、その時間がどれぐらいになるのかは明言できない。また、その手間をかける以上、車両を見てからの購入判断は不可。つまり、車両状態の良し悪しは関係なしに、無条件で必ず買い取ってほしい」
これについて、古賀さんがどう返答したのかは説明不要だろう。そして待つこと約2週間。アスコットイノーバは、埃まみれではあったが、晴れて古賀さんの愛車になったのだ。
予想以上に傷が少ない、グッドコンディションに歓喜
解体業者から自分の元に届くまで、「3回ほどこっそりとヤードに見に行きました」というほど待ち焦がれていた古賀さんだったが、ラッキーだったのは予想以上に車両状態が良かったこと。
「外装は日常使用程度の細かい擦り傷があるぐらいで、へこみは無し。基本的にノーマルで、内装やフロアマットなども綺麗なまま。走行は8万3000キロほどで、整備をしたら問題なく乗れるようになりました。僕からするとなぜ手放してしまったのかな、と思うほどの状態でしたね。結果的に、乗り出すまでに手をかけたのは、ボディを磨いて、タイヤを新品に交換したぐらいです」
しかも、憧れていたオプション品であるサンルーフをはじめ、コーナリングランプやコーナーポールも装備されていた。この状態を保存するために、余計なドレスアップなどはせずノーマルで乗ろうと決意したのだ。
「欧州車って5ドアの人気が高いですよね。このイノーバって5ドアではないのですが、流れるようなクーペデザインとハードトップの影響で、ちょっと5ドアっぽい雰囲気がありませんか? 僕はそれが好きなんです!」
放っておけばあのまま土に還りそうだったのに、愛情あるオーナーさんとの出会いによって、まさかの復活を果たした「アスコットイノーバ」。人もクルマも、このような運命的な出会いは必ずあるもの。全国のクルマ好きの皆さん。次は貴方に、そんな巡りあわせがやって来るかも!?