華のごとき存在感を見せるジャガーEタイプ
映画に登場する名車をストーリーとともに紹介する「映画とクルマ」。今回は、名女優オードリー・ヘップバーンが主演を務める『おしゃれ泥棒』をお届けします。
名コンビによる魅力的なコメディ映画
アメリカ映画界の巨匠、ウィリアム・ワイラー監督と、名女優オードリー・ヘップバーンは、あの『ローマの休日(1953年・米作品)』で世界を魅了した名コンビ。その二人が麗しのパリを舞台に、しかも『アラビアのロレンス(1962年・米作品)』で世界に名を馳せることになった渋い名優、ピーター・オトゥールとともに制作したコメディ映画が魅力的でないワケがない。その魅力的なコメディ映画とは、1966年に公開された『おしゃれ泥棒』である。
パリ・ブローニュの森近くに邸宅を構えるシャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)は裕福な美術品収集家として知られるが、実は天才的な贋作作家。自ら制作した美術品を本物と偽り、巨万の富を得ていた。そんな父親を愛しつつも、なんとか足を洗わせたいと困窮していたのが、オードリー・ヘップバーン演じる一人娘のニコルである。
ある時、シャルルの所有する作品の真贋に疑念を抱きつつあった美術商の依頼を受け、オトゥール扮する探偵で美術鑑定の専門家でもあるシモンが、ボネ邸に潜入。そこでニコルと鉢合わせし、ニコルはシモンを泥棒だと思い込んでしまう。しかしニコルは一計を案じ、かねてから父親が美術展に出品していたチェリーニのヴィーナス像(もちろんシャルルの手掛けた贋作)を、展示会場から盗み出すようにシモンに依頼することになる……。
当時世界を魅了していたジャガー「Eタイプ」
この作品に“大泥棒シモン”の愛車として登場するのが、当時世界を魅了していたジャガー「Eタイプ シリーズ1 オープンツーシーター」。そそっかしいニコルのミスで、手にケガを負ってしまったシモンに代わり、通常は可愛いアウトビアンキ・ビアンキーナを愛車としているニコル自身がEタイプを運転する羽目になるのだが、それまでは融通の利かない堅物だった彼女が、Eタイプの素晴らしい性能を実感することで、パリの街を爆走するまでに至る。
そして、このドライブを契機に彼女の大胆な側面がどんどんと現れるのだ。泥棒であるはずのシモンは抑え役のような立ち位置になってしまい、さらに2人の恋愛に発展するという洒脱なストーリー展開にも、ジャガーEタイプという稀代のスポーツカーの存在感が、絶大な影響力を及ぼしていると言えよう。
今なお世界の文化の中心である美しきパリの街と、その風景さえ霞ませてしまうほどにキュートなヘップバーン。そして彼女のためにジバンシィが制作した、現代の目から見ても最高に“おしゃれ”なコスチュームの数々。そんな、まるで大作コメディオペラのごとき“総合芸術”の中にあって、華のごとき存在感を見せるジャガーEタイプは、やはり名車中の名車と実感させられてしまうのである。
劇中車:ジャガー「Eタイプ シリーズ1」
生産年:1961年
発表は1961年のジュネーブ・モーターショー。オープンとクーペの2バージョンがラインナップされ、直列6気筒エンジンが搭載された。
『おしゃれ泥棒/How to Steal a Million』
公開年:1966年
上映時間:123分
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘップバーン、ピーター・オトゥール