ル・マンを制したマシンの上を行く5ローター!
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「ロータリーエンジンのチューニング」についてです。ドリフトドライバーとして人気のマッド・マイク選手が、なんと5ローターのスペシャルマシンを製作したそうです。ロータリーエンジンのチューニング方法はレシプロエンジンとは異なる手法があるという。その魅力を語ります。
ローターを増やせばパワーアップ可能なのが魅力のひとつ
マツダのロータリーエンジンが「MX-30」に搭載され復活しました。ですが、かつてのように、それが発する動力を太いタイヤに直接伝達することで激烈な加速を得るのではなく、レンジエクステンダー式ハイブリッドの動力源として復活したのです。
レンジエクステンダー式ハイブリッドは、エンジンは駆動輪と直結していません。エンジンはバッテリーに電力をためる発電機としての機能であり、走りそのものは電気モーターに依存します。いわば、ロータリーが裏方となったのです。サバンナやRX-7のあの獰猛なダッシュ力を知る人たちにはやや寂しくもありますね。
ですが、ロータリーエンジンをいまだに強力なパワーユニットとして活用しているドライバーがいます。トーヨータイヤの契約ドライバーで、ドリフトで活躍するマッド・マイク(米国)が、「マツダ787D」と命名したスーパーカーを製作してしまったのです。
ロータリーエンジンにはレシプロエンジンが真似のできないメリットがあります。繭型のハウジングを積み重ねればパワーを増やすことができるのです。やや強引な表現になりますが、1ローターでも2ローターでも3ローターでも、比較的安易に排気量を増やすことが可能。シリンダーが上下運動する一般的なレシプロエンジンでも、単気筒、2気筒、3気筒……と増やすことも可能ですが、それはシリンダーブロックを新設計する必要があります。ところがロータリーは、積み重ねるだけでいいのです。
それが証拠にMX-30ロータリーEVは1ローターですが、RX-7は2ローターでした。過去には3ローターのユーノスコスモも市販されていました。日本車として初めてル・マン24時間を制したマツダ787Bは、4段重ねにした4ローターだったのです。マッド・マイクの「マツダ787D」は、なんと5ローターです。これは歴史上もっとも数の多いロータリーエンジンと言えるでしょう。
ちなみに、「マツダ787D」は、日本車として初めてル・マン24時間を制したマツダ787Bへのリスペクトでしょう。BではなくDとしたのは、彼がこのマシンでドリフトを戦うからだと推測します。
レンジエクステンダーハイブリッドのMX-30ロータリーEVでは1ローター、ル・マン24時間で勝利するためには4ローター、もっと過激なパワーを求めるのならば5ローター……。ロータリーエンジンはまだ無限の可能性を秘めているように感じます。近い将来、6ローターなんという化け物も誕生するかもしれませんね。