大人向けのスポーツサスで懐の深い味付けになっている
GR86の開発にプロドライバーとして携わっていた土屋武士氏が、遂にオリジナルの足まわりを発売する。ビルシュタイン製の車高調整式サスペンションをベースとしたそれは「タケシュタイン」と命名された。そのデモカーの取材に向かうが、目の前に差し出されたクルマは意外にも車高以外ホイールもタイヤもノーマル。その真意とは一体どこにあるのだろうか?
(初出:XaCAR 86&BRZ magazine Vol.042)
ストリートでの快適性と適度なスポーツ性能を併せもつ足
「ノーマルは86らしさを実現できているし、サーキットも受け入れる足になっています。けれども、50歳代に突入した私が普段乗りで使うとちょっと疲れてしまう。通勤とかツーリングで快適に使えつつ、たまのサーキットでも走れるような懐の深い足を造ってみたかったんです」
土屋氏はそう話してくれた。つまり狙うのはオールラウンダーだ。
前後の車高をノーマル比で20mmダウンとしたその車高調は、バネレートをフロントのみ1kgアップとしているが、リヤはノーマルと変わらずだという。アッパーマウントはノーマルを使用。フロントは倒立式となるが、それ以外に派手なスペックは見当たらない。土屋氏は、次のように解説してくれた。
「GR86はとくにリヤのボディ剛性が高いんです。サス、メンバー、ボディといった3つの剛性が合わさって高荷重のところを支えるわけですが、国内の一般公道を走っていてサスの剛性を高める必要を感じず、ノーマルと同じレートとしたんです。剛性を高めすぎるとタイヤに全部負担が行ってしまいます。剛性過多にならないように、仕事分担を考えて荷重をいなすことを考えました」
ロングドライブでも快適に走れる絶妙な乗り心地
走ってみるとその狙いがタウンスピードからも読み取れる。しなやかさが際立ち、路面への追従性が良く、4つのタイヤがいまどのように接地しているのかが理解しやすいフラットライド。これならロングドライブでも疲労度はかなり軽減されるだろう。
荒れた路面の突き上げは皆無だ。だからといってヤワじゃなく、ステアリングにはしっかりとした剛性感が伝わり、無駄な動きをしているような感覚はない。
ワインディングにおけるハードなブレーキングやターンインにおいて、対角に動きすぎずにリヤのイン側の接地がきちんと感じられる。リヤがしっかりと伸びて安定感がありつつ、素直な回頭性を見せたことが好感触。伸び側と縮み側の減衰バランスは絶妙だ。ちょっとヤンチャだった86が、車格が上がり大人の風格を感じるかのようなフィーリングを残している。
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土屋氏は、最後に次のように話してくれた。
「厳密に言えばまだまだ伸ばせるところはあるんですよ。狙うは時速40キロ以下を真っ直ぐ走る低荷重領域。そこの快適性を高めたいんです。走りをキープした上でそこを狙うことは難しいので、次はボディの一部にちょっとした補強を入れようかと製品化を考えています」
現状でも十分にバランスした仕様だと感じるが、土屋氏が考えるオールラウンダーはまだまだ先にあるようだ。つちやエンジニアリングが考えるスーパーノーマル86への探求は、まだまだ終わらない。