わずか1年しか生産されたなかった500SLC
なんと美しく、そして端正な姿を持つモデルなのだろう。今回RMサザビーズが開催したミュンヘン・オークションのカタログを見て、思わずページをめくる手が止まったのは、1984年式のメルセデス・ベンツ500SLCが掲載されたページだった。
生産台数は1133台と少ない
出品車はベージュのレザー・インテリアに、鮮やかなブルー・グリーンのボディカラーを組み合わせた仕様。セントラルロック、電動ウインドウ、クルーズコントロール、ヘッドライトワイパー、パワーステアリング、リミテッド・スリップ・デファレンシャルといった標準装備に加え、当時オプションだったスライディング・サンルーフまでもが装備されている。
生産日は不明だが、最初の登録はフランスで1984年11月21日に行われている記録が残る。メルセデス・ベンツの、いわゆるヤング・タイマーの世界をこれから楽しもうというマニアには、そのコンディションを見ても悪くはないチョイスといえる。
メルセデス・ベンツの型式では、C107型と呼ばれるSLCシリーズは、1971年にR107型SLシリーズ、すなわち初代SLから数えて3代目となるSLの誕生とともに登場した。SLが着脱可能なハードトップやソフトトップを装備するのに対し、SLCはすでに生産が中止となっていたSクラス・クーペの後継車としての役割を果たすため、2ドアクーペとしてデザインされた。ホイールベースをR107型SLから254mm延長することで、後席を設けることに成功している。実用性が大きく高まったSLCは、確実にSクラス・クーペのカスタマーからの高い評価を得るに至ったのだ。
SLCにはデビュー以来さまざまなモデルが追加されていくが、特に強力なV型8気筒エンジンを搭載したモデルは発売当初からアメリカ市場を中心に人気を得ていた。1971年に発表された1972年モデルでは、すでに4.5LのV型8気筒エンジンを搭載する350SLCがラインアップされており(1973年モデルからその車名は450SLCに改められる)、1977年には450SLC 5.0としてシリーズ最強の240psを誇る5LのV型8気筒仕様を新設定しているのだ。
そして1980年にはSLCにビッグマイナーチェンジが実施され、今回の出品車である500SLCはここで誕生。しかし500SLCは1981年にSクラス・クーペ(C126)がデビューするとその役割を終え、わずか1年ほどの期間でその生産を終えてしまう。
C107型SLCの総生産台数は6万2000台を超えるとされるが、500SLCはそのうちわずかに1133台がデリバリーされたのみ。その希少性は相当高いというのが率直な感想だ。ちなみに出品車は、1984年11月になって、初めてファーストオーナーのもとに納車されたという記録が残る。
今回のミュンヘン・オークションでも、そのような希少性とヒストリーがビッダーに伝わったのだろう。予想落札価格は3万5000~5万ユーロ(邦貨換算約570万円~815万円)と提示された中、3万9100ユーロ(同640万円)での落札となった。そのコンディションと生産期間の短さが、きちんと評価された結果の落札価格だったといえる。