生涯の大半をアメリカの東海岸で過ごした
2023年12月8日、RMサザビーズがアメリカ・ニューヨークで開催したオークションにおいてランボルギーニ「カウンタック 25thアニバーサリー」が出品された。現在のオークションマーケットでの評価はいかほどなのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
アメリカ仕様として輸出されたのはわずか12台
ランボルギーニ カウンタックの最終進化版である「アニバーサリー」は、その車名が物語るとおり同社の創立25周年にあたる1988年に発表された。ちなみにランボルギーニは、その前年の1987年にそれまでのミムラングループからクライスラーへと経営権が譲渡されており、アニバーサリーもまたクライスラーの意思に基づいて開発が進められたモデルであるかのような印象も持たれがちだ。
だが、じっさいには1987年にはオラチオ・パガーニによるデザインが完成していたことなどからも証明されるとおり、あくまでもミムラン政権下のランボルギーニが独自の意思で誕生させたモデルと考えるのが正しいだろう。
パガーニによるアニバーサリーのデザインは、基本的なシルエットはそのままに、そのディテールをリフレッシュすることでオプティカルな魅力と、機能性向上を同時に実現したものだった。
たとえばブレーキ冷却用のエアインテークが新たに設けられるようになったフロントのスポイラーや、フィンを備えるリアのサイドステップ(これはすでに前作の5000QVでも採用例があった)、リアフェンダー上のエアインテーク等々の造形は、パガーニが特に強いこだわりを見せた部分。そしてじっさいにそれらはアニバーサリーのアイコンともなっている。
一方このボディに包まれるメカニズムの改良と熟成にあたったのはルイジ・マルミローリ。エクステリアデザインの変更に伴う冷却効果の改善をはじめ、前後トレッドの拡大、キャタライザーや点火系の改良、さらにはキャビンに新たな衝撃吸収材を採用するなど、その範囲は多岐に及んでいた。
リアミッドに搭載される5167cc仕様のV型12気筒DOHC48バルブエンジンは455psと5000QVから変化はないが、こちらにも改良の手は確かに及んでいる。
カウンタック アニバーサリーはトータルで657台が生産され、これはカウンタックの全モデル中、最大の数字となった。最大の市場はアメリカと思われがちだが、アメリカ仕様として正規に輸出された台数はわずかに12台。ここで紹介するのはその中の1台、1989年モデルのアニバーサリーだが、このモデルにはさらに特別な歴史があった。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に登場した
2013年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。このアニバーサリーは、その主役であったレオナルド・ディカプリオとともに登場した個体である。ディカプリオは、同作で飛ぶ鳥を落とす勢いの金融業者、ジョーダン・ベルフォートを演じている。
映画には1980年代後半から1990年代前半にかけてのスポーツカーや高級車が多数使用され、カーマニアにはまさにたまらない映画のひとつだったのだが、その中でも主役級、いや完全に主役の座を演じたのがこのカウンタック アニバーサリーだった。
映画の撮影には2台のアニバーサリーが用意され、さらにエグゾースト・サウンドを録音するために5000QVも調達された。そして衝撃的なことにスコセッシ監督は、クラッシュシーンにおいてもアニバーサリーの使用にこだわった。この出品車は運よくクラッシュのシーンを避けることができたもう1台のアニバーサリーである。
鮮やかなビアンコ(ホワイト)のボディに、やはりビアンコのインテリアカラーで仕上げられたこのアニバーサリーは、その生涯の大半をアメリカの東海岸で過ごし、その初期にはニュージャージー、ペンシルバニア、フロリダなどを行き来した。
アメリカ仕様の特徴である大型のフロントバンパーは、映画撮影中には欧州仕様の小型のバンパーを装着しており、リアウイングもシーンによって着脱されたという。そして撮影が終了後、長年のエンスージアストであったオーナーから譲り受けられ、アメリカ仕様のフロントバンパーに大型のリアウイングという工場出荷時の外観へと戻されたのだという。
カウンタック アニバーサリーの中でも、特に他車を圧倒するヒストリーを持つ今回の出品車。RMサザビーズ社のニューヨーク・オークションでの落札価格は、じつに165万5000ドル(邦貨換算約2億3830万円)と驚異的な数字を記録した。参考までにこれは同オークションにおける4番目の高値となるもので、過去にオークションで落札されたカウンタックの記録を88万ドルも上回っている。