アメリカを象徴する究極のハイパーカー
2023年12月8日、RMサザビーズがアメリカ・ニューヨークで開催したオークションにおいてフォード「GT」が出品された。オークションマーケットでの評価はいかほどなのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
エアロダイナミクスの向上を目指したボディデザイン
フォードGTの2019年モデルが、RMサザビーズ社のニューヨーク・オークションに登場した。フォードGTとしてはセカンド・ジェネレーションとなる、この世代のモデルが誕生したのは2015年の北米国際自動車ショー(デトロイト・ショー)。
先代のフォードGTが、かつて1960年代にル・マン24時間レースなどで大活躍を見せたGT40の面影を残すデザインだったのに対し、それに続くクリス・スヴェンソンと彼のチームによって生み出されたセカンド・ジェネレーションのボディは、よりシャープで現代的なライン構成を採用することで、エアロダイナミクスの向上を目指しているのが特徴として挙げられる。
ボディデザイン、すなわちエアロダイナミクスがセカンド・ジェネレーションのGTにとっていかに重要なものであったのかを証明する最も確かな例は、そのパワーユニットの選択に表れている。
フォードではV型8気筒、あるいはV型12気筒エンジンの搭載も当初は計画されていた。だが、コンパクトなエンジンがデザイナーに与える自由度を考慮して、最終的にはEcoBoostと呼ばれる3.5LのV型6気筒ツインターボエンジンをミッドに搭載することを決断している。最高出力は647ps、最大トルクは746Nmだった。
シリンダーヘッドやブロックなど、F150の3.5L V型6気筒と多くのコンポーネントを共通するエンジンだが、大型のターボチャージャーをはじめ、アルミニウム製のインテーク・マニフォールド、ドライサンプの潤滑システム、カムシャフト等々はGT専用のアイテムである。トランスミッションはゲトラグ製の7速デュアルクラッチ式だ。
シャシーはカーボンファイバー製のモノコックをセンターに配置し、その前後にはアルミニウム製のサブフレームがボルトで固定される。サスペンションはプッシュロッド式で、それによってサスペンションの主要なコンポーネントをインボードにレイアウト。車体の大型エアロダイナミクスエレメントのためのスペースを確保している。
またこのサスペンションは油圧で調整が可能であり、車高はコンフォート・モードでは標準値から120mmアップ、またトラック・モードとVmaxモードでは70mmダウンできる。ホイールはオプションでカーボンファイバー製を選ぶことができたが、それはフォード車としてはシェルビー・マスタングGT350Rに続くもの。強度の向上はもちろんのこと鍛造アルミニウムホイールと比較して、1本あたり1kgの軽量化を実現。サイズは前後とも20インチ径となる。
走行距離はわずか300km
フォードが新たに生み出した、セカンド・ジェネレーションのGTに対する反響は、予想どおり非常に大きなものだった。生産はフォードとともにその開発にも関係したカナダのオンタリオ州にあるマルチマティック社が担当し、2022年のモデルイヤーまで1350台を生産するという計画が発表された。ちなみにこの数字は、初代GTが2004年からの約2年間で4038台が生産されたことを考えれば、はるかに少ないものであることは言うまでもない。
今回ニューヨーク・オークションに出品されたセカンド・ジェネレーションのGTは、アップグレードされたダーク・エナジーのインエリアに、インゴット・シルバーのエクステリアという仕様で仕上げられたもの。オプションでは前に触れたカーボンファイバー製ホイールのほか、やはり同素材によるエクステリアパッケージ、レッドブレーキキャリパーなどが選択されている。新車時にモンタナ州のオーナーにわたった後、2021年には現在のオーナーに売却された履歴を持つが、現在までの走行距離は約300km。ほとんど新車に近いコンディションを保っている。
その驚異的なパフォーマンスに壮大なエアロダイナミクス・デザイン、そして最先端のテクノロジー。フォードGTはまさにアメリカを象徴する究極のハイパーカーと評してもよいのだろう。ちなみに今回のオークションでの落札価格は86万3000ドル(邦貨換算約1億2430万円)。それだけの価値は十分に認められる1台である。