現地でそれぞれ独自のモデルを開発してきたフォード
古くはT型の時代から世界各国に現地法人を立ち上げ、やがて現地でそれぞれ独自のモデルを開発してきたフォード。日本でも大正時代から昭和の戦前にかけて、日本フォードは「日本最大の自動車メーカー」として知られたメジャー・ブランドであった。現在ではアメリカ本国のフォードの他、英国フォードとドイツ・フォードを統合して設立されたヨーロッパ・フォードの二系統に大きく分けられるが、今回は欧州製フォード・オーナーを対象としたイベント「ヨーロッパフォードミーティング2023」の参加者の中からご紹介しよう。
高性能バージョンがモータースポーツの世界でも大いに活躍
さる2023年11月04日(土)、静岡は浜松市の浜名湖ガーデンパーク南ロータリーにて開催されたこのイベントは、その名の通りヨーロッパフォード車オーナー及びOBのためのイベントで、全国から集まったオーナーが情報交換したり親睦を深めたりするというもの。
また、各自が持ち寄った「地元のお土産」の交換会などの余興も毎回好評で、コロナ禍で中断を余儀なくされていた時期もありつつ、今回のイベントは2013年の初回から数えて第8回目となる。イベント当日には約50台の新旧ヨーロッパ・フォードが集まったがその中の1台がこちら、hironyaNさんの愛機フォード「フォーカスRS」だ。
アメリカ本国でも欧州でも、元々は質実な実用車を安価に提供することを第一義としてきたフォードだが、その反動なのか時として常識外れのとんでもないスポーツ路線に舵を切ることがある。ル・マン24時間を制覇するために送り込んだフォード「GT40」の物量作戦ぶり、コスワースと組んで生み出した史上最強のF1エンジンDFV、そしてもちろんロードカーの分野でも然りで、本来はベーシックな実用セダンにロータスやコスワースの高性能エンジンを押し込んでツーリングカー・レースやラリーを席巻したコルチナ・ロータスや歴代のエスコートなどの活躍は、フォード・フリークならずともよくご存知だろう。
「このフォーカスRSは2010年モデルです。2012年に新車で手に入れました。最近ではイベントの参加が多く、昔ほどサーキット走行会などには行かなくなりましたね。走行距離は現在5万3300kmほどです」
と語るのはオーナーのhironyaNさん。今は後進に仕事を引き継いでもらっているというが、このヨーロッパフォードミーティングの運営に古くから関わってきた古参の実行委員会メンバーの1人でもある。そんな彼の愛機が、欧州産スポーツ・フォードの血統を色濃く継いだこの1台なのだ。
その秀逸なハンドリングと優れたパッケージで評価の高い歴代フォーカスはその基本性能の良さを活かし、高性能バージョンがモータースポーツの世界でも大いに活躍している。このクルマに辿り着く前にはスズキ「アルト ワークス」やS13型日産「シルビア」、そしてR32型「スカイラインGT-R」など、数々のスポーツ系モデルを乗り継いできたhironyaNさんだからこそ、フォーカスRSの持つ本気のスポーツ度に心奪われたのだろう。
究極のストリート仕様車
「フォーカス Mk.2 RS MR375 クラブスポーツというのが正式な名称です」
というこのフォーカスRSは、ご覧の通りただものではない。エンジンから足まわりまで、彼の地では定番チューニング・ブランドとして知られるmountune PERFORMANCEのキットを組み込んで仕上げた1台。これ以上ハードにするとロードユースはなかなか厳しくなるというその一歩手前でバランスを取った、ある意味究極のストリート仕様。
かつてフォードジャパンが正規輸入していたのは基本的には5ドアかワゴンのATというジェントルなグレードだけだったが、イメージ・リーダー的な存在のRSやSTをもっと積極的に輸入していればその後の展開もまた異なったものになっていたかもしれない……と、そんな詮無いことさえ考えてしまうチューニング・フォーカスRSの迫力とかっこよさ。
徹底した実用性ととんでもないスポーツ性、ひとつのブランドに潜むジキル博士とハイド氏のような極端な二面性もまた、ヨーロッパフォードの持つ大いなる魅力である。