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今年のバレンタインは「マイアーニ」希望! どうしてキューブチョコがフィアットゆかりのお菓子になったの?【週刊チンクエチェントVol.28】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之

1911年にフィアットのためのチョコレートを作った

そう。そうなのだ。フィアットといえばマイアーニ。そうあるべきなのだ。イタリアの商工会議所から「イタリアの歴史を作った企業」として賞されたこともあるボローニャの菓子メーカーは、イタリアの近代史そのものを支えたといっていいトリノの自動車メーカーと、切っても切れない深い関係にあるのだから。

御存知の方もおられるだろう。マイアーニ(=Majani)はイタリアを代表する、チョコレートを主体とした菓子メーカーだ。その歴史はなかなか古くて、1796年にテレーザ・マイアーニがボローニャはサンペトロニオ教会の前に開いた小さな工房兼菓子店からはじまっている。長い歴史を持つだけに逸話はいろいろあるけれど、まぁひと言でいうならその菓子店が成長を重ねて現在の地位と名声を得るに至ったわけだ。そして特筆すべきは、1878年にイタリア王国の王室、サヴォイア家の公式サプライヤーになったということだろう。

そしてもうひとつの大きなトピックは、1911年にフィアットのためのチョコレートを作ったこと。フィアットが“ティーポ4”という新型車のプロモーションのために、マイアーニにノベルティ用のチョコレートを作らせたのだ。イタリア本国のマイアーニの公式サイトによれば、フィアットの創業者であるジョヴァンニ・アニェッリが開催したコンテストだかオーディションだかわからないけどそういう選考会で、ほかのショコラティエたちを抑えてマイアーニが優勝したらしい。

マイアーニが作ったチョコレートの名は「クレミーノ・フィアット」。クレミーノとはイタリアのキューブ型チョコレートの一種で、ジャンドゥイアチョコレートの間にナッツ系、コーヒー、ホワイト系など別のチョコレートを挟み込んだもの。多くは3層構造なのだけど、マイアーニのそれはほかと異なり、ティーポ4という車名に合わせて4層とされていた。その美しいルックスもさることながら、ヘーゼルナッツとアーモンドとカカオの味と香りの見事なハーモニーが、当時のハイソサエティな人たちや文化人たちの間で絶品であると賞賛されて市販化。今もマイアーニを代表するチョコレートとして不動の人気を誇っている。

のちにノワール、カフェ、ラッテ、エクストラ・ノワール、ピスタチオ、カラメル、ソルトといったフィアット・チョコレートが追加され、最初のレシピはクラシコと呼ばれるようになったが、そのクラシコこそが段トツ人気だったりもする。

 

現在わが国にはマイアーニの日本法人や販売代理店というのは存在しないようだけど、おそらくその都度の契約で正規輸入する食材会社や百貨店などは存在しているようで、実はチンクエチェントの小さなモデルカーと一緒に化粧箱に入って販売されたりすることが結構ある。特に2月のバレンタインデーが近づいたころに「マイアーニ フィアット ミニカー」みたいな感じで検索すると発見できることが多く、もちろん数量は限定だから、ファンとしては早めに検索して早めに手に入れるしかない。

ちなみに写真の赤い箱と赤いチンクエチェントのヤツは僕がとある美女からバレンタインデーに頂戴したモノで、義理もいいところであるのは明白だったけど、嬉しかったし美味しかった。クレミーノ・フィアットはペロッと食べちゃったものの、そのときの幸せな記憶は美しい化粧箱やミニチュアのチンクエチェントともに残るわけだ。

義理チョコだったことまで思い出しちゃって“俺に幸せな日々というのは来るのだろうか……?”なんて考えちゃったことは余計ではあるのだけど、今こうしてマルペンサ空港の土産物屋さんの写真だとか化粧箱やモデルカーだとかを眺めてると、やっぱりこのクルマはイタリアの文化そのものなのだよな、なんて思えてくる。

チンクエチェントとは、そういう存在なのだ。

◎マイアーニの本国サイト

https://www.majani.it

■「週刊チンクエチェント」連載記事一覧はこちら

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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