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伝説のBMWワークスカーがたったの4250万円!? 正体は本物の「3.0CSLエヴォケーション」でした。ところでエヴォケーションって?

伝説のBMWワークスカーがたったの4250万円!? 正体は本物の「3.0CSLエヴォケーション」でした。ところでエヴォケーションって?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

レプリカ? それともエヴォケーション?

2023年11月のRMサザビーズ「Munich 2023」オークションに出品された3.0CSLは、シャシーNo.#2285395。1973年に製造された438台の後期型のうちの1台である。

もともとはBMWがホモロゲーション車両として生産したストリートバージョンであり、英国に新車として納車され、1973年9月13日に初登録されたという。

ロードカーとしてのヒストリー記録は残されていないものの、1990年代にはレーシングスペックに改造されていたと考えられている。

また2000年に出品されたオークションでは、3.5Lのレーシングエンジンが搭載され、カルダーの「アートカー」にオマージュを捧げたカラーリングが施されていたことが、当時のオークション資料に記されている。そののち白/赤/青のBMWワークスカラーに塗り替えられ、現在に至っているようだ。

1990年代に行われたと思われるレース仕様への改造は、徹底したものだった。室内にはロールケージが組み込まれ、スパルコ社製「エヴォ II」レーシングシートがマルチポイントハーネス・シートベルトとともにセット。くわえてロードバージョンのセンターコンソールに代わって、スイッチ類とエマージェンシー用カットオフ回路を備えたパネルが設置されている。

いっぽうエクステリアに目を移すと、大型のエアインテークが印象的なエアロボディキットで完全武装され、ディープリムのディッシュ分割式ホイールに英エイヴォン製レーシングタイヤが組み合わされている。またテールには、トランクリッドを貫通するように取り付けられたデュアル燃料フィラーに継続された、本格的なレース用燃料タンクが装備されている。

そして今世紀を迎えたのちは、前オーナーによって2011年の「アルガルヴェ・クラシック・フェスティバル」や2012年の「ドニントン・ヒストリック・フェスティバル」などのヒストリック・レーシングイベントに投入。さらに2017年6月には、「コンペティション・ツーリングカー・クラス」のFIAヒストリックテクニカルパスポートを取得した。

この3.0CSLは、すぐにでもサーキットでパフォーマンスを発揮するコンディションにあり、このオークションでの落札者にとって、BMW3.0CSLがエントリー対象とされるイベントでの理想的なパートナーとなり得る。そんな謳い文句とともに、RMサザビーズ欧州本社は37万ユーロ~47万ユーロという、かなり強気のエスティメート(推定落札価格)を設定した。

ところが、実際の競売では思うようにビッド(入札)が進まなかったのか、エスティメート下限を大幅に下回る27万2750ユーロ。日本円に換算すれば約4250万円という、出品者側にとってはいささか不本意、購入者にとってはリーズナブルな価格で落札されるに至った。

この落札価格は、ロードバージョンの3.0CSLの相場価格にほぼ匹敵する。現役時代のレースヒストリーのある本物の「3.5CSL」であれば、いわゆる「億越え」が当たり前の現況ながら、やはり後世にモディファイしたレース仕様車では、このあたりに落ち着くものと思われるのだ。

蛇足ながら、RMサザビーズでは今回の出品車を「3.0CSL Works Evocation」と命名している。「Evocation(エヴォケーション)」とは、記憶・感情などの喚起を意味する。つまり、当時モノのワークスカーを正しいメソッドで再現したと主張しているのだが、このなかなか便利な表記は、今後のクラシックカー業界で流行する予感がしなくもない。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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