希少な限定車を贅沢に走らせる喜び
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「BMW3.0CSLに乗った」です。BMW M社が創立50周年を記念して生み出した希少限定モデルを、日本の公道で試乗する機会を得た筆者。そのパフォーマンスについて語ります。
軽さが生み出す軽快な走り
販売価格1億3000万円。世界50台限定。こんな希少なBMW「3.0CSL」をドライブする機会など、自動車業界で物書きなどをする身でありながらも、そうそうあるものではありません。
ですが今回、世界の50名に選ばれた鈴木氏(日本一のBMWショップであるスタディ会長)の御厚意によって、その幸運を手にしたので報告することにします。
すでに2023年8月に日本へ上陸しており、このコラムでもさわりだけを紹介しているのですが、実際にステアリングを握り性能を確認したのは初めてになります。
BMW 3.0CSLは、現在のBMW M社の前身であるBMWモータースボーツ社設立50年を記念して開発されたモデル。1972年、BMWモータースポーツ社設立のその年にデビューした3.0CSLを現代流にアレンジして蘇らせたのです。
CSLとは、クーペ、スポーツ、ライトウェイトの略です。ですから驚くほど軽量に仕上げられている点が特徴のひとつ。ボンネットやトランク、あるいはウイングをはじめとしたエアロパーツのほとんどは超軽量素材であるドライカーボンで製作され、徹底したダイエットが行われています。
プラットフォームやパワーユニットはM4をベースにしているようで、直列6気筒ツインパワーターボを搭載した6速MT+FR駆動となっています。しかし、エンジン出力は560ps/550Nmまで強化して激烈なパワーを炸裂させているのですが、走りで印象的だったのはやはり、その軽さです。
リアシートを取り外し、2名乗車にしてまで軽さにこだわっているわけですからそれも納得です。そのパワースペックが物語るように、過激な動力性能を見舞うのは予想通りですが、秀でているのは軽量ボディゆえにコーナーを舞うような軽快なフットワークにありました。
なおかつ印象的だったのは、モンスターマシンにありがちの獰猛さをオブラートに包み込んでくれていたことです。たしかにスロットルペダルを床まで踏み込めば、尋常ならざる加速を披露するのですが、恐怖に慄くような操縦性ではないのです。
希少なクルマかつ、まだ慣らし運転段階だったということもあり、限界ギリギリまで攻め込んだわけではありません。ですから、限界域で最後の最後にこのマシンがいかなる表情を見せるのかは確認できず……。
ただ、ひとたびタイムアタックに挑めば最速を記録することは想像できますが、ワインディングをアップテンポなリズムで走っている限り、ドライバーをいたずらに緊張させるようなフィーリングではなかったのです。萎縮させる点があるとすれば、このBMW 3.0CSLがとても高価であり希少であることだけでしょう。
ともあれ、その軽快なフィーリングがBMW M社の哲学を想像させたのも事実です。希少性を考えれば、ナンバーを取得せずに博物館などに飾っておくのが相応しいのかもしれません。実際に世界ではそんな御仁も少なくないのでしょう。ですが、スポーツカーである以上その走りを楽しむために開発されているはず。そしてそのための軽量化なのです。