ウルス以前ではランボルギーニ史上唯一のフル4座席のエスパーダ
さる2023年11月25日にRMサザビーズ欧州本社が開催した「Munich 2023」オークションでは、「The Style Icons Collection」と銘打ち、イタリアおよびイギリスで1970年代に製作された、5台のスーパースポーツ&高級グラントゥリズモが出品された。今回はその中から、ランボルギーニの4シーターGT「エスパーダ」をピックアップし、そのあらましとオークション結果についてお話しさせていただくことにしよう。
ショーファードリヴンにも供された? 超絶ゴージャスなランボルギーニ
ランボルギーニ・エスパーダは、4LのV12ユニットをフロントに搭載するフル4シーターGT。フェラーリがつねに2+2モデルしか持たなかったことから、ランボルギーニはフル4シーターモデルをベルトーネとともに開発することにした。
そして、前後席をカバーする巨大なガルウイングドアと巨大なグラスルーフを持つ、未来感あふれるコンセプトカー「マルツァル」を経て、1968年のジュネーブ・ショーにて正式デビューを果たしたのが「400GTエスパーダ」である。
マルツァルがミウラ用V12を半分にカットした2L直列6気筒DOHCエンジンをリアに置いていたのに対して、エスパーダは320ps(シリーズ I)を発生するV型12気筒4カムシャフト3929ccユニットを、長大なノーズ先端に近い位置に搭載。ランボルギーニの開祖「350GT/400GT」以来のFRとした。
2+2バージョンの400GT/イスレロよりも10cm長い、2650mmのホイールベースの延長分はすべてキャビンの拡充に充てられ、全高わずか1185mmながらフル4シーターを実現していたことは驚きに値するだろう。
もちろんマルチェッロ・ガンディーニの作品であるボディは、マルツァルのそれをほぼ踏襲したプロポーションを持つが、左右のドアやウインドウグラフィックはコンベンショナルなものとされている。いっぽうインテリアは、当時のランボルギーニのフラッグシップらしく、きわめて豪華なものに仕立てられている。
自身の若々しさやアクティブな気質をアピールするため、ドライバーの隣に座る雇用主も珍しくはないイタリアでは、2ドアモデルながらショーファードリヴンも意識していたとのこと。そんな理由もあって、エアコンディショナーやパワーウインドウはもちろん、ファーストオーナーの意向次第ではTV受像機やミニバーなどのオプションも装着できたという。
エスパーダはクラシック・ランボルギーニとしては「カウンタック」(シリーズ総計で約2000台)に次いで、2番目に生産台数の多いモデルとのこと。1968年から1978年の約10年間に、3世代(シリーズI:1968~70年、シリーズII:1970~72年、シリーズIII:1972~78年)にわたって、シリーズ総計で1217台(ほかに1227台説などもあり)が生産されたといわれている。
このほどRMサザビーズ「Munich 2023」オークションに出品されたのは、1972年4月に製造されたエスパーダ・シリーズ IIである。
アメリカで歴史を重ねた確かなヒストリー
1972年4月に製造されたこのシリーズ IIエスパーダは、シャシーナンバー#8726。1968年から1978年にかけて生産されたエスパーダのうちの670台目とされる。
「セナーペ(辛子)」と名づけられたライトブラウンの本革インテリアに、明るいグリーンのメタリック「ヴェルデ・パリド」のボディカラーというエレガントなリバリーで仕上げられ、長大なボンネットの下にはシリーズ IIスペック、350psを発生する4.0LのV型12気筒エンジンが搭載され、5速マニュアルギアボックスが組み合わされた。
インペリアル(マイル表示)スピードメーターとオプションの「ヌォーヴァ・ソスペンシオーネ」を装備したシャシーナンバー#8726は、1972年5月30日にニューヨークの「モデナ・スポーツカーズ」社を介して、コレクターのヤン・バッツに納車された。
1981年3月、以前のイリノイ州での所有権はヤン・バッツの家族であるトッド・バッツに移ったが、このエスパーダは2006年まで家族のコレクションとして愛蔵されることになる。
2006年11月、カリフォルニアの「ラグジュアリーカーズ・ロス・ガトス」社を介して前オーナーが入手したこのエスパーダは、今回のオークション出品者である現在のオーナーに譲渡される2015年初頭まで保有された。
そして現オーナーの依頼のもと、2021年に「レトロ・スポルティーヴァ」社によってエンジンのリビルドが行われ、その際には6万ユーロを超える請求書が発行されたとのことである。
現在、このエスパーダ・シリーズ IIは、マッチングナンバーのV型12気筒エンジンとともに、ヴェルデ・パリド外装/セナーペ革内装という工場出荷時のカラーリングを維持している。ボディナンバーは車内のさまざまなパネルで発見され、その写真は添付されるファイルで閲覧することができる。
このクルマは、エスパーダの中でも極めて保存状態の良い1台であるとともに、当時のマニュアルやパンフレット、ランボルギーニとベルトーネそれぞれの塗装とレザーのオリジナルサンプルも含まれている。
また2017年7月の段階で、新車から2万4644マイル(約3万9400km)しか走っていなかったようだが、この時点でオドメーターはドイツ国内の道路交通法規制に適応させるためにメートル表示ユニットに交換されている。それ以来、このクルマはオークション公式カタログ作成時の数値に見合う、わずか683kmしか走行していない。
ちなみにオリジナルの古いオドメーターは、スマートな当時モノのツールキットとともに、オークション出品時には車両に添付されていた。
このヒストリーの確かさと現状のコンディションに自信を得ていたのか、RMサザビーズ欧州本社は現オーナーとの協議のもと、16万ユーロ~20万ユーロというエスティメート(推定落札価格)を設定。また、入札が跳ね上がることを期待して「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格を設定しないことにした。
ところが実際の競売ではビッド(入札)が進まなかったようで、エスティメート下限を大きく割りこむ14万7200ユーロ。日本円に換算すれば約2320万円での落札に終わってしまい、売り手の期待は裏切られることになってしまった。
ただしこのハンマープライスは、この1~2年におけるエスパーダのマーケット相場価格から大きく乖離したものではなく、落札者にとってはなかなかリーズナブルなものだったとみるべきだろう。