有名な漫画の超有名なクルマの実写版!?
クルマをテーマとした漫画はたくさん描かれてきました。そのなかでも首都高を舞台にした漫画といえば、『湾岸ミッドナイト』が超有名です。主人公が乗るフェアレディZと同じくらいに人気があったのが、ポルシェ「911ターボ(930)」です。その実写版を紹介します。
走り屋でなくとも夢中になった『湾岸ミッドナイト』
昭和世代が愛してやまないクルマをテーマとした漫画は数多くあるが、その中でもリアルなストーリー性で大人気となった作品といえば、楠みちはる作『湾岸ミッドナイト』だろう。
首都高ランナーの物語として、朝倉アキオが操る悪魔のZと、そのライバルである島達也のブラックバードとのバトルは超有名だ。そこに描かれた内容も、現実とも非現実ともいえる絶妙な世界観で、筆者も食い入るように読み込んだことを思い出す。
今回紹介するポルシェ911ターボ(930)は、そんな湾岸ミッドナイトの実写版Vシネマでブラックバード役として使用されたマシンである。このマシンの持ち主の名は菅野大介さん。実は彼も1990年代に盛り上がった土曜の夜の首都高湾岸最高速を経験したひとりだった。
乗り物が大好きでチューンドカーにぞっこんだった菅野さんは、チューニングカーを求めて首都高速に通っていた。そこで当時、伝説と言われた走り屋チームに遭遇する。それが「ミッドナイト」だった。
そのチームの代表が駆るポルシェ911ターボ(930)は、見るからに凄いオーラを放っており、とんでもないポテンシャルを秘めていることは一目瞭然。そんな圧倒されるほどのオーラを肌で感じ、虜になってしまった菅野さんは、そのポルシェ911ターボにひと目惚れ。
当時、まだ学生だった菅野さんにポルシェを購入することなどは夢のまた夢だった。そこで、大学に4年間通いながらアルバイトを掛け持ち、少しずつお金を溜め、ついに22歳の時に念願のポルシェ911ターボを新車で購入した。いまから34年ほどもむかしのことである。
ポルシェ911ターボを購入後は、ドライブデートにしばらく使って乗り回しながら楽しんでいたそうだが、なにせ菅野さんも走り屋。そして、憧れていたポルシェ像はチーム・ミッドナイト代表の愛車だったため、次第に走りの方向へシフトしていきチューニングもエスカレート。湾岸最高速ポルシェとしてチューニングを開始することになる。
湾岸最速仕様にチューニング
湾岸仕様フルチューンマシンとして、誰よりも速く走るために施したチューニングの内容は、エンジンを3.3L化し、ビッグタービン+巨大なインタークーラー搭載で600psのパワーを引き出した。
ただ、現在はさらにチューニングを進め、排気量を3.4Lまでスープアップさせ、ポート研磨、ハイカムをセットし、ワンオフのエキマニにボルグワーナーS300SXEタービンを装着。すべての制御をモーテックによってコントロールさせることで精密制御を行い、ピークパワーだけでなく、立ち上がりのレスポンス等を意識したセッティングを施している。
また、チューンドエンジン搭載に伴って、足回りにも手を加えている。元々、911ターボのサスペンションは、構造が普通ではない特殊形状のトーションバー式サスペンションを採用している。しかし、これだと足回りのセッティング幅に制限がでるため、より自由度を求め、一般的なコイルオーバー式に変更。その結果、選んだサスペンションは、エナペタルショック+ハイパコスプリングのセットだった。また、ボディ補強も行い、スポット増しを車体全体に施している。
どうして映画の劇中車に選ばれた?
外装については通称「湾岸スポイラー」と呼ばれているTBKフロントバンパーをセット。リアバンパーもTBK製で、ウイングはベルグを装着させている。また、パッと見ではわからないが、ルーフもカーボンルーフ仕様になっているということだった。
憧れ続けたミッドナイト代表のポルシェ911ターボに近づくために製作した菅野さんの愛車。その頃、ちょうど漫画『湾岸ミッドナイト』が世に知れ渡るタイミングだった。
そして、そこに登場するブラッグバードのモチーフになったマシンがミッドナイト代表のポルシェ911ターボだったというわけだ。
では、なぜそのクルマを差し置いて、菅野さんの愛車が実写版のブラックバードとして選ばれたのか? これには理由があって、実はブラックバードのモチーフになったミッドナイト代表の911ターボのボディカラーはあずき色だったのである。そして、菅野さんの愛車はオールブラックのだったというわけだ。
さらに、たまたま映画製作会社のスタッフが首都高を走る菅野さんの愛車を見かけ、これぞブラックバードと感じたことがきっかけで指名が入ったという。
ブラックバードのモチーフとなった憧れの人物の愛車を目指して作った車両が、ブラックバードとして劇中車に採用される。なんとも不思議なストーリーだ。
菅野さんは、「わたしのポルシェは、たまたまの偶然ですけど、色々な意味で様々な縁を引き寄せる不思議なクルマだと感じています」と語ってくれた。今となっては、ポルシェ仲間の間でもすっかり「ブラックバード」と呼ばれるようになったそうである。