「テイク・イット・イージー」でイーグルスが歌ったウィンズローの街角
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。イリノイ州シカゴから西に向かい、見どころの多いアリゾナ州へやって来ました。今回は人気バンド・イーグルスとゆかりの深い必見スポットです。
イーグルス・ファンならずとも「聖地巡礼」する価値あり
世界中でヒットした「ホテル・カリフォルニア」などで知られ、結成から半世紀が過ぎた今も人気のバンドであるイーグルス。デビュー・シングルであり代表曲のひとつ「テイク・イット・イージー」は、カントリー・ロック調の軽快なリズムで彼らを一躍スターダムの座へ押し上げた。今回はそんな名曲と深い関係がある街を紹介しよう。
女性関係のしがらみを断ち切って旅に出た主人公は、アリゾナ州のウィンズローという小さな街にたどり着く。街角に佇んでいると赤いフォードのトラックに乗った女の子が自分を見つけてスピードを落とす。歌詞の表面だけを捉えればモテ自慢の軽いノリにも思えるが、随所にダブル・ミーニング的な意味が込められていると言われ、昔からファンの間で作者が込めた意図について議論されてきた。
何はともあれ実際のウィンズローには、イーグルスのファン必見の「街角」がある。それがスタンディング・オン・ザ・コーナー・パークで、街のメイン・ストリートであるルート66との交差点だ。パークといっても立派な公園があるわけじゃない。火災で焼け落ちた建物の一部を使ったイラストを描いた壁、そしてテイク・イット・イージーを共同で作り上げたふたり、イーグルスのグレン・フライとジャクソン・ブラウンの銅像だ。
最初にジャクソン・ブラウンが書き始めたが完成させることができず、同じアパートに住んでいたグレン・フライが手を貸して生まれたという。最初にイーグルスがデビュー曲として世に送り出し、後にジャクソン・ブラウンも自分のアルバムに収録。そんな経緯があり最初に建てられた銅像はジャクソン・ブラウンで、グレン・フライの銅像ができたのは彼が2016年に亡くなった後だ。傍には歌詞のなかに出てくる赤いフォードのトラックが置かれ、向かいのギフトショップはスピーカーでイーグルスを流し続ける。
イーグルスやジャクソン・ブラウンの大ファンである私にとってはまさに聖地で、ウィンズローを訪れての「巡礼」もルート66を走る目的のひとつといっていい。2011年3月6日に東京ドームで行なわれた公演では、アンコールで生のテイク・イット・イージーを聴き、翌日からルート66全線走破の旅に出るという巡り合わせ。
余談だがジャクソン・ブラウンが2014年にリリースしたアルバム『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』には、テイク・イット・イージーのように軽快な曲調の「リービング・ウィンズロー」が収録されているので興味がある人は聴いてみよう。
レトロな街並みや郊外の砂漠も見てみよう
ウィンズローで必ず立ち寄りたい場所は他にもある。お腹が空いているなら1955年に創業した、ファルコン・レストランをお勧めしたい。朝6時から夜9時まで営業しており上質なアメリカとメキシコの料理、また心のこもったサービスでルート66の旅人をもてなしてくれる。
もうひとつは1927年オープンの映画館、ウィンズロー・シアターだ。アール・デコ様式の建物で当時としては珍しいエアコン完備。不況や近年のコロナ禍などで何度か閉鎖の憂き目に遭いつつも、2023年4月1日からは新しいオーナーの手で再開されているようだ。
時間に余裕があれば郊外へ足を伸ばしてもいい。ウィンズローから北東に30分ほど走ると、リトル・ペインテッド・デザートに到着する。名前のとおり「ペトリファイド・フォレスト国立公園」を構成する、ペインテッド・デザートと同じくカラフルに彩られた砂漠だ。
規模こそ本家より小さいけど入場料が不要なうえ、誰かと会うことはほとんどない静けさがお気に入り。ただし無人がゆえにリムから底へ降りてのトレッキングや、コヨーテなど野生動物との遭遇には十分に注意したい。私も数年前に野犬とバッタリ出くわし、慌ててクルマへ逃げ戻ったことがある。アメリカは日本と違い狂犬病の清浄国ではなく、犬に限らず野生哺乳類との接触はリスクを伴う。十分に注意したうえで自然が描いた絵画を楽しんでほしい。
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