東京オートサロン2024の注目のクルマをピックアップ
1983年に「東京エキサイティングカーショー」という名称で初めて開催された当初は、ちょっと不良っぽいカウンターカルチャー的なイメージもあったチューニングカーやカスタムカーの世界。その後1987年にはイベント名を現在の「東京オートサロン」へと変更し、いまでは東京モーターショー(現・ジャパンモビリティショー)に勝るとも劣らない自動車業界新春恒例の一大イベントへと進化。老若男女を問わず楽しめる多彩なコンテンツが用意され、日本国内はもとよりアジアや欧米各国からの来場者も多い。本稿では、さる2024年1月12〜14日にかけて開催されたそんな東京オートサロン2024の会場から、気になるクルマをご紹介。
アキバのカルチャーとオースティン・セブンが融合
もともとは最高速度や馬力、サーキットのラップタイムやゼロヨンのタイムなど、メカニカル&オイリーな話題が中心で硬派な印象も強かった「東京オートサロン」も年々進化を続け、いまや単なるチューニングカー&カスタムカーの展示にとどまらず、メーカーの新車お披露目からライフスタイル全般まで「クルマ」をキーワードに、ハードからソフトまで幅広い展開を見せている。そんな多様化する近年のオートサロンを象徴するような展示ブースのひとつが、今回ご紹介する「Project Rabbie(プロジェクト ラヴィ)」である。
昔気質のクルマ好きには馴染みのない名前かもしれないが、それもそのはず。こちらのメイン・コンテンツはオリジナルの美少女キャラを核としたゲーム、音楽、各種配信サービスなど。いわば「アキハバラ」的なジャンルと言えるのだが、今回のショーで展開するのはNintendo Switchでの発売が決定した『ふたごうさぎのご近所ツーリズモ』というドライブアクション・ゲーム。
「双子のうさぎ姉妹がご近所で大冒険を繰り広げるドライブアクション・ゲーム」というものだが、そんなProject Rabbieのブースに展示されていたのは、なんとオースティン セブン スペシャルである。
英国の歴史的国民車のスペシャル仕様
1922年にデビューしたオースティン セブンといえば、戦前の英国モータリゼーションを一気に加速させた歴史的国民車として有名だ。オースティンのロワーエンドを担うベーシック・モデルとしてデビューしたセブンだが、747ccの直列4気筒SVエンジンをはじめ、このクラスにして本格的な「自動車」としての体裁を備えており、それまで英国を跋扈していた軽便なライトカー群を一掃、最終的に29万台の生産台数を誇る小型車の大ベストセラーとなったのである。
オートサロン公式HPの車両紹介によると、展示されたセブンは1935年式。「ルビー」と呼ばれたサルーンの他、「パール(カブリオレ)」、「オパール(オープン2シーター)」、「ニッピー(スポーツツアラー)」など、当時のカタログにはいくつものボディ・バリエーションが用意されているが、これはそのいずれでもない。
かのT型フォードが、アメリカのクルマ好きの若者にとって格好のカスタム・ベースとなったのと同様、オースティン セブンもまた英国の若者たちが自ら改造するベース車両として大いに重宝された。かのロータスの創始者、コーリン・チャップマンが作ったロータスの第1号車「ロータス マーク1」も、中古のオースティン セブンがベースだったというエピソードもよく知られている。
このオースティン・セブンもフロントフェンダーは潔く取り外され、ウインドウもブルックランズ・タイプのレーシング・スクリーン、そして2シーターの室内後部には剥き出しの燃料タンク(いわゆる「スラブタンク」)が備わるなど、小さいながらも精一杯ポスト・ヴィンテージ期のスポーツカーの文法に則った姿を再現した「スペシャル」となっている。
由緒正しき英国車が美少女キャラとコラボ
それにしても、由緒正しい英国の正調レーシング・カスタムとアキハバラ的美少女キャラとの接点は? そこで代表の鈴木史郎さんにお話を伺うことに。
「もともと撮影用車両のレンタルや、ヒストリックカーの整備が本業なんです。本社は都内ですが神奈川の方にはレストア工房もあります。ただ、同時にゲームやアニメの世界も好きだったので、旧車が登場するオリジナルのゲーム、CDなども手がけてみました。将来的にはアニメ作品までできればいいかな、と(笑)」
なるほど、それでこのようなハレーション気味のブース展開に。ちなみに鈴木さんはご自身でも旧いクルマで走られるのですか、との問いには「ラフェスタ・ミッレ・ミリアに参戦したりしてます。」とリアル世界では実践派。
じつはこのオースティン セブンの他、Project Rabbieのブースには1955年式のアバルト「A107」も展示してあった。そちらについては別項でご紹介するが、ゲームに登場するクルマの精霊「アルト」のコスチュームがそのアバルトA107だったことに気づいたのは、イベント後のこと。
ともあれ、クルマのイベントも趣味の世界も年々歳々進化する。その進化の速度に改めて恐れ入った、東京オートサロン2024である。