車庫を確保している証として存在
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「保管場所標章」です。リアウインドウに貼り付けるものですが、この保管場所標章が姿を消すことになるそうなのです。この保管場所標章に並々ならぬこだわりを持つ友人がいるという木下さん。そのこだわりエピソードを紹介します。
発行された警察署が記載されている
警察が発行し、クルマのリアウインドウに貼る「保管場所標章」が、どうやらその役目を終えて廃止の方針で検討を進められているようなのです。
保管場所標章とは、車庫証明書が発行されたクルマであることを証明する標章です。クルマの所有者は、本拠地より半径2km以内に駐車スペースを確保しなければなれません。1991年に、車体に貼るよう義務化されました。それを証明するものなのです。
ですが、デジタル化が進んだことで、保管場所標章の添付を確認する必要が薄れました。車両ナンバーから保管場所を確保しているか否かは判断できるからです。1991年に保管場所標章が施行された理由は、道路を駐車場代わりに利用するユーザーが多く、運行上の障害を招いていたことです。社会問題化し、クルマのオーナーには車庫証明書の取得が義務化され、その証として保管場所標章が発行されたという経緯があります。
貼付場所は、リアウインドウと定められています。場所を指定しているのは個人的に興味深いポイント。ただし、オープンカーやトラックなどリアウインドウがないクルマでは、どこか見やすい場所という曖昧な規定です。貼らなかったからといって違反点数や罰金といった罰則もないので、それほど重要なものではなかったように思います。
だというのに、「保管場所標章」を手にするために手間がかかることは無視できません。警察署にまで出向いて対面で受領しなければならず、手数料として500円が徴収されていました。その煩雑さと費用がなくなったことは大歓迎かもしれません。
ただし、面白いことに全会一致で賛成なのかと思っていたら、たわいもないことが理由で、廃止を残念に感じている人もいたようです。
「赤坂警察署」の記載にステータスを感じる!?
じつは僕の知人のひとりは東京・赤坂に住んでいます。バブル景気を経験しており、始めた事業が成功。手にした赤坂のタワマンに住んでいるわけです。ですから彼のメルセデス・ベンツに貼られている「保管場所標章」には、「赤坂警察署」の文字が印字されています。もちろん品川ナンバーです。
ことさらバブリー思考の彼は、品川ナンバーのメルセデス・ベンツに乗り、赤坂警察署が発行する保管場所標章を貼ることが夢だったというのだから呆れますよね。多分にミーハー的な感覚ですが、品川ナンバーが誇らしく、それだけでは満足できません。発行が赤坂警察署であることが気持ちをクスグルのだそうです(笑)。
日本経済が狂乱だったバブル期には、高級車がウヨウヨと六本木や渋谷の繁華街をクルーズしていました。わざわざ地方からやってくるクルマも少なくなく、その中で東京23区在住であることを表す品川ナンバーがステイタスだと思われていた時代があったのです。青春をバブル時代に過ごした彼は、品川ナンバーであるうえに赤坂警察署発行であることに自尊心を刺激されたといいます。
人の趣味嗜好は様々ですね。ともあれ、それをモチベーションに事業を成功させたというのだから、それはそれで祝福しなければなりません。誰にも迷惑をかけていないのですから、個人の自由です。
彼に言わせれば、赤坂警察署と同級の保管場所標章は、青山警察署と高輪警察署が発行したものだけだそうです(笑)。
たわいもない与太話ですが、保管場所標章の廃止の情報を得たときに、最初に浮かんだのが友人であるミーハーな彼のことです。彼がいまどんな気持ちでこのニュースを知るのかは不明ですが、これからも赤坂警察署発行の保管場所標章だった、というステイタスを誇りに事業を拡大してほしいものです。