イタリア車が好きなら1度は訪れておきたい場所
名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第29回は「イタリアに行くなら絶対に寄りたい場所」をお届けします。
何度行っても楽しめるヘリテイジ・ハブ
2023年の年末から2024年の年明けにかけては、寝て過ごすことになった。というか、より正確に言うなら、バテ切ってダウンしてたところに大風邪をひいて、寝込む以外にできることがなかったのだ。年末までの2カ月の間に数えてみたら計16回も1〜2泊の遠方自走出張があったうえに普段の仕事ももちろんあって、最も過密なときには650km走って深夜に帰って来たと思ったら翌日は都内で夕方まで別のロケをやって夕方から500km走って深夜にホテルに入って翌日は早朝から出張仕事をこなして夕方に出発して都内に戻って……な感じ。じーさんと呼ばれても反論できない身には、スーパーハード過ぎる。おかげで何とか年は越せたけど、身も心もグズグズにだってなっちゃうわけで、そんなときにどこかでウイルスをもらってきちゃったのだから、もうイチコロである。
今回からゴブジ号ことターコイズブルーの1970年式フィアット500Lがその後どうなったかというお話に戻していくつもりだったのだけど、そんなふうに激しかったり怠惰だったりする日々を目まぐるしく繰り返していたのだから、当然の帰結として住まいということになってる目黒のハズレの部屋の中は祭りの後みたいに散らかり放題のグチョングチョン。で、ゴブジ号のモロモロをメモした取材ノートがどこかにまぎれ込んで見つからない。いや、間違いなくこの部屋の中のどこかにはあるのだけど、病み上がってるのか上がってないのか未だビミョーな状態だから、探す気力がどうしても湧いてこない。
だが、さすがはチンクエチェントである。前回もお伝えしているけど、何らかの楽しみを見出そうと思えばたやすくできちゃうのだ。どっかで立ち往生しちゃうこと以外にも、ちょっとばかり興味を持っていただけそうなネタはたくさんある。なので、ひとつ前のお話に引き続き、イタリア本国のお話だ。
2023年のアバルト500e国際試乗会ではミラノのマルペンサ空港に隣接したホテルに宿泊させていただいて、到着した翌朝、僕たちはバスに乗せられて約150km先のトリノまで運搬された。前夜は深夜の到着だったから、調整日としての意味合いもあったのだろうが、トリノまで行って何をしたのかというと、500eレッドという限定車で街中を軽く試乗した以外は、ステランティスの施設をいくつか見学させていただいたのだった。
そのうちのひとつが、ステランティスのイタリアン・ブランドのクルマたちをひとつところに集めた『ヘリテイジ・ハブ(= Heritage Hub)』だ。2019年にプラーヴァ通り沿いにある旧ミラフィオーリ工場のワークショップ81の敷地内に開設された、旧FCAイタリアン・ブランドのヘリテージ部門の本拠地である。フィアット、アバルト、ランチア、そして一部アルファ ロメオやアウトビアンキの歴代モデルを保管・展示する施設であり、1960年代半ばに作られたフィアットのトランスミッション生産工場の雰囲気をそのまま活かしながらリニューアルされた1万5000㎡の敷地の中に、300台ほどの歴史的なクルマたちが並べられている。またユーザーが持ち込む歴史的なクルマのレストアを行う作業場も隣接されたりしてる。
アルファ ロメオには以前からアレーゼに“ムゼオ・ストリコ・アルファ ロメオ(アルファ ロメオ歴史博物館)”という施設があること、そしてアバルトは世に出たモデルの多くが競技車両として売られて世界中に散っていることもあって、ここに展示されているクルマのほとんどがフィアットとランチア。フィアットにはほかに現在休館中の“チェントロ・ストリコ・フィアット”という施設もあるのだが、収蔵台数で言うならこちらの方が圧倒的に多いほど。
ここではプロダクションモデルはもちろんだけど、レースやラリーを戦ってきた競技車両、国際的なアドヴェンチャー・ツアーを走ったクルマ、ショーモデル、プロトタイプといった貴重なクルマの数々が、テーマ展示のエリアではゆったり整然と展示され、そしてそれ以外の車両はテーマ展示を囲むようにギッチリと詰め込まれて顔を並べている。
イタリア車ファンなら必見の内容
そのテーマは、今回訪ねた時点では8つ。意訳するなら「競技車両と速度記録車」「コンセプトカーとワンオフ&カスタムメイド」「テクニカル・マスターピース」「エコ&サスティナブル」「スモール&セーフティ」「デザインのマイルストーン」「壮大なアドヴェンチャー」「ラリーの時代」っていうところだろうか。ここはチンクエチェントとそれにちなんでフィアット&アバルトに関して取り上げる連載だから他ブランドにはあまり触れないようにしておきたいところだけど、ランチアの歴史的レーシングカーやラリーカーなんてほかにどこで観ればいいわけ? ってなところだから、もういくらだって眺めていられる。
当然ながら、フィアットらしい小さく魅力的なクルマたちもたくさん収蔵されている。例えばアバルトが最初に手掛けたチンクエチェントのチューンドカーだったり、2007年発表の現行チンクエチェントのコンセプトカーだった“トレピウーノ”だったり、ザガートがデザインスタディとして現行チンクエチェントのルーフラインをアレンジした“500クーペ・ザガート”だったり、さらには様々なイベントのために特別なカラーリングが施されたチンクエチェントなどだったり。もうそのあたりを観てるだけでもめちゃめちゃ楽しい。
ここを訪ねるのは3回目だったのだけど、やっぱり今回も時間がたりなかった。もっとジックリ観たいクルマとかもたくさんあったのだよなぁ……。いや、もう、それくらい圧巻なのだ、このヘリテイジ・ハブ。
そういうわけなので、ここはチンクエチェント・ファンもフィアット・ファンもそうじゃないけどイタ車ファンっていう人も、必見。イタリアへ旅行する計画があるなら、絶対にスケジュールに入れるべき場所だと思う。
いや、実は以前の2回のときにはまだ施設が“いずれ公開する予定”という段階で、メディアの人間だから入れてもらえたという後ろめたさみたいなものがあったのだけど、コロナ渦があけて、今では一般公開がはじまっている。といっても見学できるのは金曜日から日曜日の間だけだし、好き勝手に見て回れるわけじゃなくてイタリア語か英語のガイドツアーが基本だし、事前に日を選んで登録してチケット買っておかないとならないし……と、思いのほか制約が多くて面倒だったりする。チケット代も大人ひとり26ユーロと安くはないけれど、それを押しても観に行くべき価値は間違いなくある。
以下に見学できる日程が表示されていたりチケットを買えるページにアクセスできたりするWeb SiteのURLを貼り付けておくので、行くぞー! という人はそっちを細かくチェックしてみていただこう。
◎ヘリテイジ・ハブ/チケット関連サイト
https://museoauto.vivaticket.it/en/event/heritage-hub/186516
ついでにヘリテイジ・ハブの情報サイトも。
https://www.fcaheritage.com/en-uk/heritage/places/heritage-hub
というわけで、次回はもうひとつ、トリノに行くなら絶対に訪ねるべき施設があるので、そっちを紹介してから本編に戻ることにしよう。……体力が回復して取材ノートが見つかったら、だけど。
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