MC20チェロが日本に上陸
マセラティブランドの節目を飾るMC20のオープンモデル「チェロ」を長距離テスト。クーペで上質なグランドツアラー&リアルスポーツカーぶりを経験した同じ京都までのコースで、「空」が見えるチェロの実力を試してきました。
ブランドの節目を飾る“ネットゥーノ・エンジン”搭載モデル
有名ブランドの今は悲喜交々だ。フェラーリやランボルギーニのように業績絶好調で順風満帆なブランドもあれば、ジャガーやアルファ ロメオのように業績不調からBEV専売という賭けに出るブランドもある。ICEVとBEVの二刀流で突き進むポルシェやジャーマンプレミアム3といったドイツ勢、業績好調ゆえに思い切った電動化を進めるロールス・ロイス、もう一皮剥こうと心機一転BEVに賭けるロータスなどなど、その現在地もまた様々だ。
イタリアの老舗マセラティは経営のコンディション的に見て、同じイタリア勢でたとえるならアルファ ロメオとフェラーリの間くらいだろうか。業績はそこそこ、電動化には積極的、けれども内燃機関も見捨ててはいない(V8エンジンこそ2023年12月で生産を終えたけれど)。そんなブランドの近未来戦略のノロシとなったモデルがMC20であった。
リアミドシップ・スーパースポーツの世界に戻ってきただけじゃない。カーボンモノコックボディを持つ軽量ミドシップスポーツは、それゆえ将来のフル電動化にも備えたマシンだ。事実、マセラティはすでに新型グラントゥーリズモをICEVとBEVの二刀流モデルとしてハナから開発しデビューさせた。台数規模は違うけれどBMWあたりと似た戦略である。
マセラティのように小さなブランドが、巨大グループの一員であるとはいうものの、内燃機関とフルバッテリーを同じタイミングで新規開発することは並大抵ではない。しかも、そのカテゴリーは一つではなかった。SUVからスーパーカーまで広範囲にわたっている。マセラティ首脳陣の不退転の決意がみてとれるだろう。
というわけで、ブランドの一大転機、節目を飾るモデルとなったMC20。すでにクーペとオープンモデルの“チェロ”というエンジン2モデルが日本に上陸し、続々とデリバリーされている。クーペで一度京都までテストドライブをしており、さらに今回、スパイダーでも同じコースを走ってみることに。
カーボン骨格の2シーターミドシップスポーツカーというとつい硬派な乗り味を想像してしまいがちだ。けれども筆者はすでにクーペのテストで、MC20のとても上質なグランドツアラーぶりを経験している。同時にもちろんリアルスポーツカーとしても上等であることも知っている。チェロになって、その魅力は空が見えるぶんだけ純粋に増すのか、それともどこかを減じてしまうのか、知りたいことはそれだけだった。
ダイナミックな剛性はクーペと変わらず
落ち着きよく応答するフロントアクスルに腰応えも十分に粘るリアアクスル、それらを忽然一体と味わわせてくれる、カーボンボディによって生み出された滑らかな乗り心地と安定した高速クルージング性はクーペと同様だ。ドライブモードをGTもしくはウェットにさえしておけば、630psを誇るネットゥーノエンジンも静かに唸るのみ。
軽い車体と硬いボディ、それがゆえに気持ち良く働くアシのおかげで高速クルージングのみならず市中のドライブも快適だ。もっともルーフの剛性が落ちるぶん、乗り時にやや雑味が生じていた。クーペの乗り心地が硬いモデルの場合、スパイダーでは肩の力が抜けて心地良くなるケースがままあるのだけれど、MC20の場合、GTカーとしてもクーペの完成度は高い。乗り心地という面ではクーペの方が全般的な評価としては優っている。
もっともそんなことは山坂道でのドライビングを一度楽しんだなら、いとも簡単にトレードオフできる。いつものワインディングロードに出かけてみれば、相変わらず水を得た魚で、リズミカルに流れるようなドライビングを楽しむことができる。その上、空が見え風を感じるのだ。サイコー。
ここで初めてスポーツモードにスイッチ。これまでの静けさが嘘のような爆音を響かせ、ダイレクトな変速で電光石火の加速をみせる。風を感じるぶん、より一層スリリング。ステアリングフィールはソリッド感に溢れ、ハンドルを通じて両腕と前輪とがダイレクトにつながっているかのよう。カーボンボディゆえ、ルーフを開けていてもダイナミックな剛性はクーペと変わらず、さらにトラクション性能も抜群だから、どんなコーナーでも安心して踏んでいけた。もちろんブレーキフィールの良さも特筆できる。
オープンになって、よりダラーラ ストラダーレの乗り味に近づいた。MC20チェロはラグジュアリーなダラーラである。