1964年式 ロールス・ロイス シルヴァークラウドIII マリナー・パークウォード製ドロップヘッド・クーペ
「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回セレクトしたクルマは、ロールス・ロイス「シルヴァークラウドIII」をベースに、コーチビルダーの「マリナー・パークウォード」が架装したドロップヘッド・クーペ(DHC)。生産台数のきわめて少ない、エクスクルーシヴなクラシックパーソナルカーの試乗レポートをお届けします。
ロールス・ロイスとして仕立てた、特別な「コンチネンタル」とは?
1960年代半ば、モノコックボディを持つ「シルヴァーシャドウ」や「コーニッシュ」が登場する以前、フレームとボディが別構造だった「シルヴァークラウド」以前のロールス・ロイス(以下R-R)では、老舗のコーチビルダーの手がけた「スペシャルコーチワーク」車両が、量産型のサルーンよりも上級かつエクスクルーヴなモデルとして少数製作されていた。
今回の試乗車であるR-RシルヴァークラウドIII DHCのボディは、当時ロールス・ロイスの傘下にあったベントレーの象徴的モデル「S3コンチネンタル」と共通のもの。もともとはその以前の「S2コンチネンタル」時代から製作されていた「パークウォード」製の2ドアDHCがオリジンとなる。またこのDHCのほかに、当時のR-R社では「スポーツサルーン」と呼ぶ、クローズドボディのクーペも作られた。
H.J.マリナーと並ぶ名門にして、1936年にはR-R社の傘下に収まっていたパークウォードの手で創造された、S2コンチネンタルのモダンかつスタイリッシュなボディは、ノーズ先端からテールエンドまで一直線に伸びるショルダーラインから、デビューした頃には「ストレート・スルー」のニックネームが授けられていた。
この時代のパークウォードに属していたノルウェー出身のデザイナー、ヴィルヘルム・コーレン(Vilhelm Koren)が描いたと言われるこのデザインは、ジョヴァンニ・ミケロッティやカルロ・フェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニ(トゥーリング・スーペルレッジェーラ社の当主)など、イタリアのカロッツェリアを支えていた一流スタイリストたちの作品に影響を受けたと目されている。
そして、ベントレーS2がS3に進化したのと時を同じくして、1962年にデビューしたS3コンチネンタル時代には、サルーンと同じく4灯ヘッドライトを採用したが、これも当時のイタリア車のごとく、内側2灯のハイビームを低めにセットするかたわら、外側2灯のロービームを高めにセットされた4灯式ヘッドライトとともにつり目のような表情を醸し出すことから、有名な「チャイニーズ・アイ」の愛称で呼ばれることになる。
ところが近年では、クラシックカー業界でも中国人をはじめとする東洋人の影響力が高まっているせいか、欧米では「チャイニーズ・アイ」という呼び名はほとんど使われなくなり、「ストレート・スルー」表記が復活を遂げているようだ。
いっぽうS3コンチネンタルのデビューから遡ること1年前の1961年には、パークウォード社とH.J.マリナー社がロールス・ロイス社の傘下のもとで合併。新たに「マリナー・パークウォード」と名乗ることになった新会社では、とくに贅沢なカスタマーのリクエストに応えて、ベントレーS3の姉妹車であるR-RシルヴァークラウドIIIでも「コンチネンタル」と同様にスポーティなボディを、ごく少数ながらオフィシャル製作することになった。
つまり、このシルヴァークラウドIII マリナー・パークウォード製ドロップヘッド・クーペは、そんな贅沢な要望に応えて生み出された、きわめてレアな1台なのである。