今後も値上る可能性が高い1台
1980年代を象徴するスーパースポーツ。それは人によってさまざまなチョイスがあるでしょう。個人的に特に印象に残っているのは、フェラーリF40としばしば直接のライバル関係として語られたポルシェ959です。当時WRC(世界ラリー選手権)の主役であったグループB車両としてのホモロゲーションを得るために、ポルシェが当時持ち得ていた技術のすべてを投じて作り出した究極の作品でした。
ポルシェは先進的で高性能なスーパーカーを作り上げた
その959のプロトタイプとなった「グルッペB」が発表されたのは1983年のフランクフルトショーでのことだった。それによってポルシェがグループBを直接的に意識していることは誰の目にも明らかになったわけだ。
いっぽう1984年のジュネーブ・ショーで初公開されたフェラーリのGTO(のちに250GTOとの混同を避けるために288GTOと呼ばれるようになる)は、そのチーフ・エンジニアであったニコラ・マテラッツィによれば、グループB車両を作る意識など微塵もなかったという。それは、フェラーリが初めてマーケティングの観点から生み出したプロダクトだったという言葉がその後に続いた。
ともあれ後にわれわれが目にすることになる、ポルシェ959と288GTOからの発展形ともいえるフェラーリF40による、スーパースポーツの頂上決戦は、あらゆる意味で刺激的なものだった。
その中でもヘルムート・ボットをチーフ・エンジニアとするポルシェのエンジニアリング・チームには、圧倒的なパフォーマンスを実現するためにコストを度外視した最先端のテクノロジーを導入することが許された。エレクトロニクスがメカニカルなパフォーマンスを向上させるという理念に対するボットの献身こそが、959という先進的で高性能なスーパーカーを作り上げたのだ。
実際にポルシェ959というモデルの細部を検証すると、まさにコストを度外視したさまざまな最先端のテクノロジーが投入されていることが理解できる。それはのちに世界のスーパースポーツにおいてスタンダードとなる機能と表現してもよいだろう。
アジャスタブル・サスペンション、インテリジェントな4WDシステム、軽量なケブラー複合材とアルミニウムによるボディパネル、超軽量なマグネシウムホイール。959はスーパーカーの世界におけるゲームチェンジャー以外の何物でもなかったのだ。
207台生産されたうちの121番目のモデル
959にはコンフォートとスポーツという2タイプのトリムがあったが、今回紹介するのはシートベルトやエアコン、キャビン断熱材、レザーシート、アジャスタブル・サスペンション等を標準装備するコンフォート仕様。当時の価格は42万ドイツマルクと記録されているが、1台販売するごとに、ポルシェはそのコストの半分を失ったという。959の新車価格は驚くほどのバーゲンプライスだったのだ。
121番の生産ナンバーを持つこのコンフォート仕様の959は、207台が生産された中で1987年、121番目にラインオフされたモデルだ。ファーストオーナーはハンブルグを拠点とする不動産投資家の女性で、1990年10月までそれを所有していた。
その後2000年5月にはアメリカ・オハイオ州のコレクターに売却され、フロリダの有名なポルシェ・スペシャリスト「FVD Brombacher」とカリフォルニアの「Callas Rennsport」によって改めて整備が施された。
今回のオークションへの委託者、つまり最新のオーナーはやはり熱狂的な959のファンで、2023年5月から2024年1月までの間にカリフォルニアの有名なショップでメンテナンス作業などのために投じた資金はじつに6万ドル弱(邦貨換算約1060万円)。この中には959SCパフォーマンス・サスペンションやシーケンシャルターボチャージャーシステム全体の点検といったメニューも含まれている。
170万~185万ドル(同2億9920万円~3億2560万円)という強気のエスティメートを提示したRMサザビーズだが、落札価格はコンディションの素晴らしさや、サスペンションのアップグレードなど、さまざまなポイントを評価して、175万ドル(同3億800万円)という数字になった。その値上がり傾向はまだまだ続きそうだ。