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常用10000回転のエンジンを目指すスズキ「アルト」! オーナー自らがセッティングを始めたいきさつとは

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TEXT: 佐藤 圭(SATO Kei)  PHOTO: 佐藤 圭(SATO Kei)

  • 東北660ターボGPの最終戦、予選2位からトップに躍り出た齋藤アルト。あくまで『タラレバ』だがパイプ抜けがなければ優勝だったかもしれない
  • 今のエンジンは腰下がノーマル。次は鍛造ピストンやH断面コンロッドを組み込み、さらなるパワーと高回転に耐える仕様とのことだ
  • 660ccのままでは大きすぎる気もするF4タービンだが、ハルテックによる緻密な現車セッティングで扱いにくさはまったく感じない
  • ECUで設定した最大ブーストは1.7kg/cm2だが、オーバーシュートで2kg/cm2に達することもある。パワーは170ps程度と本人談
  • ZC72Sスイフトの電子スロットルを流用している。ほぼポン付けなうえ価格も約1500円とリーズナブル。純正だけに信頼性も高い
  • フロントバンバー内のインタークーラーはハイエースからの流用で、パイピングを溶接し10段のオイルクーラーと横並びにセットする
  • 軽自動車としては異次元のパワーを発揮するため、冷却系は徹底的に強化する必要があるそうだ。ラジエーターも2層式で容量アップ
  • レギュレーションに合わせて6点式のロールケージ、また安全性を考慮しサイドバーも装着している。なお極端な軽量化はしていない
  • スプリングレートはフロントが10kg、リヤは9kgとごくごく平均的なレートだ。ベースとなる車高調はオートリサーチ米沢のオリジナル
  • 譲れないコダワリが165/55-14のストリートラジアル。ドライでもウエットでも安定した性能のブリヂストン・ポテンザRE-71RSをチョイスする
  • クーリングを考えればダクト付きが有利なのは百も承知だが、ノーマルっぽい外観を維持するため純正形状のFRPボンネットを選んだ
  • レースカーらしくフィラーキャップの緩み防止やレベルゲージの抜け防止は万全。最終戦で抜けたパイピングもすでに対策したという
  • ハルテックは個人でも買いやすく、価格がリーズナブルなのも魅力と話す。フィードバックの速さや通信の安定性もバツグンだという
  • 2023年はトラブル続きで不参加が多かった齋藤選手。2024年はニューエンジンで心機一転、東北660ターボGPのトップを目指す

ターボエンジン搭載の猛烈マシンは進化中

新規格のNAエンジン搭載軽自動車で争われる「東北660選手権」。その派生シリーズとして、ターボエンジン搭載車で戦うのが「東北660ターボGP」です。今回は強烈な速さを見せつけている、スズキ「アルト」を駆る齋藤博文選手を紹介します。

アンチラグまで搭載し刺激的な加速を味わえる

2023年12月3日に開催された、東北660ターボGPの最終戦。100ps以上を発揮するタービン交換車を対象とした1クラスに、ライバルたちの度肝を抜くマシンがエントリーした。

アクセルオフ時に強烈な爆発音を響かせ、ホームストレートを駆け抜けるHA23V型スズキ「アルト」だ。K6AエンジンにF4タービンをボルトオンし推定170ps、WRCなどでお馴染みの『アンチラグシステム』も搭載する。

ドライバーの齋藤博文選手は以前から東北660選手権に参戦しているが、今シーズンはレース直前に不運なアクシデントが続いており、ボディもエンジンも一新してようやく復帰することができた。ほとんどを齋藤選手がプライベートで作り上げた、1クラス制覇を目指すマシンのディテールを紹介する。

最大のポイントは何といってもエンジン系。NAしかないHA23Vアルトに「ワゴンR」などのK6Aターボをスワップしており、エンジン型式が一緒で構造変更が不要なためレギュレーション的にもOKだ。

この仕様は派生シリーズの「ターボGP」でもよく見かけ、F4タービンを使う車両も過去にいた。齋藤選手がすごいのはここから先のチューニングで、まずはスロットルをZC72S型スズキ「スイフト」の電子式に変更。HA23Vのほうが純正よりも口径が大きいうえにブーストの立ち上がりがよく、さらにアンチラグシステムを搭載するためには必須のメニューだったという。

新エンジンは常用10000回転を目指す!

アクセルオフのときもスロットルバルブを開いて空気を流す最新の制御は、電子スロットル化とフルコンの「ハルテック」があってこそと齋藤選手は話す。セッティングもすべて自らの手で行っているが、ノウハウの根底にあるのは原付のキャブレターだ。そこで燃料と空気の関係、すなわち空燃比の基礎を学び、サブコンで経験を積んだ後にフルコンへステップアップ。まだエンジンの内部パーツが揃わず暫定ではあるものの、ブーストは1.7kg/cm2でレブリミットは9800rpmに設定し、当日のベストタイムは予選で記録した1分8秒853だ。セッティング中の齋藤博文選手

660ccにF4タービンは大きすぎて低速トルクが細いのかと思いきや、3500rpmからブーストが立ち上がり5000rpmでフルブースト、そのままレブリミットまでタレることなくパワーが持続するとのこと。

1クラスの絶対王者であるダイハツ「コペン」を駆る金澤延行選手には惜しくも届かなかったが、シェイクダウンと考えれば十分すぎる結果であり、実力の片鱗は見せ付けたといっていい。2024年シーズンの開幕までに強化パーツを組んだエンジンを製作し、排気系も作り直して常用10000rpmを目指すという。

正真正銘のフルチューンでありながら、齋藤選手には譲れないコダワリがある。ひとつはタイヤで、極端に太いサイズは履かず、165/55-14のストリートラジアルで走ること。パワーを考えれば185でも足りないくらいであり、レギュレーションでも特に規制されていないが、それは軽自動車の『当たり前』から逸脱すると考えた。

ふたつめはエアコンやオーディオなど快適装備を絶対に外さず、ナンバー付きのままで当たり前に街乗りをこなせることだ。このコンセプトは2024年を戦うニューエンジンになっても変わらない。

なお最終戦の決勝レースでは一時的に金澤選手をオーバーテイクしトップに躍り出るも、後半でハイブーストの宿命といえるパイピング抜けのトラブルに見舞われてしまった。凄腕プライベーターが真価を発揮するのは2024年3月24日(日)、エビスサーキット東コースでの開幕戦に持ち越し。オフシーズンでどれほどの進化を遂げるか期待大だ。

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  • 佐藤 圭(SATO Kei)
  • 佐藤 圭(SATO Kei)
  • 1974年生まれ。学生時代は自動車部でクルマ遊びにハマりすぎて留年し、卒業後はチューニング誌の編集部に潜り込む。2005年からフリーランスとなり原稿執筆と写真撮影を柱にしつつ、レース参戦の経験を活かしサーキットのイベント運営も手がける。ライフワークはアメリカの国立公園とルート66の旅、エアショー巡りで1年のうち1~2ヶ月は現地に滞在。国内では森の奥にタイニーハウスを建て、オフグリッドな暮らしを満喫している。
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