当時、最速のロード・オープン・ベルリネッタだった!
2024年1月31日、RMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいてフェラーリ「スーパーアメリカ」が出品されました。同車について振り返りながらお伝えします。
わずか10秒で切り替えられるオープントップ
かつてピニンファリーナに24年間在職し、最終的にはデザイン・マネージャーの職を得るに至った、レオナルド・フィオラバンティ。彼がフェラーリのために残したさまざまな作品は、現在でも多くのファンの心を捉えて放さない。
1991年にピニンファリーナから独立したフィオラバンティが、2001年のジュネーブ・ショーで初公開したモデルが、自らのイニシャルをそのまま車名とした、アルファ ロメオベースのコンセプトカー、「LF」だった。
その最大の特徴はカーボンファイバー製のフレームに樹脂パネルを組み合わせた回転式のルーフパネルを採用していたことで、オープン時にもリアウインドウはそのまま残り、デフレクターとしての役割を担った。そしてフィオラバンティはこの回転式ルーフの特許を得たのである。
それから4年後の2005年。まさにそれと同じ回転式ルーフを持つモデルがフェラーリから発表される。そのワールドプレミアが、ロサンゼルス、あるいはデトロイトといったアメリカのモーターショーで行われたことからも明らかなように、そのメイン・マーケットはもちろん北米だった。
ベースとなったのは当時のV12ベルリネッタ、575Mマラネロだ。フェラーリは2001年にも550マラネロをベースに、ルーフには簡易的なソフトトップを持つのみというスパルタンな550バルケッタ・ピニンファリーナを限定で販売した経緯があるが、今回はオープンとクローズの両スタイルを、スイッチ操作によってわずか10秒で切り替えられるという、きわめて実用的なルーフを採用してきた。
ちなみにこのルーフは、クオーターピラーに内蔵された支点をベースに回転し、トランクリッド前方の格納スペースに収まる仕組み。またルーフ部のガラス濃度は、これもスイッチ操作で1秒以内に5段階で変化させることができる。
この回転式ルーフは、フェラーリによる正式な名称では「レヴォクロミコ」と名づけられているが、これは回転を意味するレヴォと、可逆的な色変化が可能であることを意味するクロミックから作られた造語である。
約1000万円以上の整備を受けオークションへ
レヴォクロミコを採用した最も大きな理由はやはりエアロダイナミクスにあり、ソフトトップを採用したモデルでは避けることができなかった空力面での不利を、この回転式ルーフは一気に解消してくれたのである。
もちろんその代償として、車重はベースの575Mマラネロと比較して60kgほど増加してしまったが、そもそもラグジュアリーな走りを求めるカスタマーが多い、このようなスタイルのクルマに、いかにフェラーリとはいえ、そこまで細かい運動性能の違いを語る必要はなかったのだろう。
ちなみにこのスーパーアメリカの最高速は320km/h以上。これは当時、最速のロード・オープン・ベルリネッタだとフェラーリは主張した。
フロントに搭載されるエンジンは、575Mマラネロのものと変わらない5.7LのV型12気筒自然吸気だが、最高出力は540psにまで引き上げられている。組み合わせられるトランスミッションに2ペダルのF1マチックと、オーソドックスな3ペダルの6速MTがあったのもこの時代の魅力。生産は2005年と2006年に限定599台で行われたが、今回パリ・オークションに出品されたのは、そのうち43台しか存在しない6速MT仕様である。
走行距離は1万5157km、マニュアルとツールキットはもちろん付属しており、新車でオーストリアに出荷されたこのモデルは、2023年2月にはフェラーリ・ディーラーで合計6783ユーロ(邦貨換算約1000万円)相当の整備を受け、今回のオークションに臨んでいる。
主催者のRMサザビーズはこれに60万~80万ユーロ(同9600万円~1億2800万円)の予想落札価格を設定したが、今回は残念ながらこのスーパーアメリカは落札に至ることはなかった。そもそもスーパーアメリカの新車価格は、ベースの575Mマラネロより25%ほど高い設定だった(およそ3000万円少し)。今後の売買成立には大いに期待したいところだ。