過酷なダカールラリーに挑戦した期待のプロジェクト
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「水素エンジンでダカールラリー参戦」。ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハにトヨタが加わり、水素を燃料にエンジンを駆動させるバギーでダカールラリーに参戦しました。このプロジェクトの未来に期待したいと、木下さんは語ります。
メーカーの枠を越えて新たな可能性に挑む
2024年1月5日から19日の14日間にわたって開催されたダカールラリーは、今年も熾烈な戦いが繰り広げられましたね。
サウジアラビアの北西部アルウラをスタートし、大砂丘を経由しながらヤンブーまでを走破します。ほとんどが砂地ですから、足元がすくわれます。日中、陽が当たるところは暑いですが、深夜になれば氷点下にまで気温が低下するそうです。寒暖差が激しいため、快適なホスピタリティは望めません。ドライバーを含めたクルーにとってもマシンにとっても過激であり、アドペンチャー色が色濃いのが特徴なのです。
ダカールラリーには、さまざまなクラスがあります。最新の4輪オフロードモデルからバイクやバギーなど、バラエティ豊かなのです。特徴的なのは、カーボンニュートラルに備えた次世代のパワートレインを搭載したマシンに限定された「ミッション1000」があることです。電動車やバイオフューエルにハイブリッドなど、環境を意識したマシンが砂漠バトルを競ったのです。
話題になったのは、日本の混成チームが走らせた「HySE-X1」です。カワサキ、ホンダ、ヤマハ、スズキの4大バイクメーカーとトヨタ自動車による研究チームが、メーカー間の垣根を超えて開発したバギーで参戦するとして話題となりました。
搭載するエンジンはカワサキ製の直列4気筒993cc、4ストロークスーパーチャージャーで武装し、燃料は水素です。といっても、搭載する水素と大気中の酸素を化学反応させて発生した電力でモーター駆動する燃料電池車ではなく、ガソリンの代わりに水素を内燃機関で燃焼させる「水素ガソリン」エンジンなのです。
装着するタイヤはトーヨータイヤのオフロードブランド「オープンカントリー」。サラサラの砂漠では圧倒的なトラクション性能が欠かせません。多くのクルマがスタックによるマシンストップと戦っています。
実は大砂漠地帯とはいえ、岩場も少なくありません。タイヤがヒットすればバーストの危険性もあります。タイヤトラブルに見舞われれば、ドライバーとコ・ドライバーが自らタイヤ交換しなければならず、大きくタイムロスすることになります。ですから、砂丘での突破力に加えて、耐久力も求められるのです。チームがオープカントリーをチョイスしたのは、そんな性能を評価したからでしょう。
それにしても感心するのは、まだ開発途上である水素エンジンであるのにも関わらず、無事に完走したことです。しかも、クラス4位に喰い込んでいます。タイヤには実績がありますが、パワーユニットの知見はまだ少ないのです。それでも期待を超える成績を残しました。
このところ、EVやハイブリッド、あるいは燃料電池や水素エンジン、さまざまなパワーユニットが選択肢として提示されていますが、既存の内燃機関の燃料をガソリンから水素に変えるたけでダカールを踏破できるこのシステムの将来性にも注目したいですね。