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約1億円のアウディは日本にあった個体でした。「クワトロスポーツ」がなぜ高額落札されるのかの理由を説明します

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

日本で過ごした歴史を持つ、純白のスポーツクワトロ

このほどRMサザビーズ「ARIZONA 2024」オークションに出品された市販ロードバージョンの白いアウディ・スポーツクワトロは、赤いボディカラーがデフォルトのこのモデルとしては、かなり希少なホワイト。そして日本に新車として輸入された、数少ないスポーツクワトロのひとつと思われる。

オークション前の「プレビュー」段階でこの個体の出品を報じた、さる国内自動車メディアの情報によると、ファーストオーナーとなったのは日本を代表するフェラーリ愛好家のひとりで、往年のフェラーリF1マシンを「チャオ・イタリア」などのサーキットイベントなどでも走らせている大人物とのことである。

いっぽう、北米ラリー選手権でドライバーとして戦っていた経歴もある今回のオークション出品者は、約10年前に当時のオーナーからこのスポーツクワトロを譲り受け、そののち高レベルの手入れを続けてきたという。

現オーナーの手にわたって以来、スポーツクワトロは細心のケアとともに保管・メンテナンスされ、かつては彼のラリーチームのヘッドクォーターとして使用されていた、空調管理された施設周辺限定で、毎月一度のペースで走行されているとのことである。

そして現所有者のもとで600kmあまりのマイレージを重ねたのちに、ミネソタ州チャンハッセンの「アンダーソン・モータースポーツ」社、およびミネソタ州セントポールのアウディ正規ディーラーにて、予備的なメンテナンスサービスを行ったとのことである。

また、純正ツールセット一式にジャッキ、オーナーズマニュアル、サービスマニュアル、無線機のマニュアル、輸入された際の手続き書類コピー、かつての売渡請求書、サービスインボイスなど、40年のヒストリーを物語るドキュメント類も、販売に際しては添付されるという。

クラシック音楽界の「帝王」、指揮者にして生粋のカーマニアとしても知られていたアルベルト・フォン・カラヤンが誰よりも早くオーダーした……、などという逸話も残されているアウディ・スポーツクワトロ。その生産台数はグループB規定に準拠した200台とされていたが、実際には214台(ほかに諸説あり)が製作されたとのことである。

それでもごく少数であることに変わりはなく、ロードバージョン/ラリー用のグループBカーを問わず、あるいはコンディションの善し悪しを問わず、一般のクラシックカーマーケットで販売される機会は、かなり稀なもの。もしも売りに出されたなら、目の肥えたコレクターによって早々に囲い込まれてしまうのが常である。

この純白のスポーツクワトロは、並外れた保存状態の良さにくわえ、日本のみならず世界中のコレクターにとっても魅力的なストーリーを兼ね備えており、この種のモータースポーツ用ホモロゲートスペシャルの中でも、とくに注目に値する伝説的マシンとのこと。そんな謳い文句とともに、RMサザビーズ北米本社と現オーナーは、57万5000ドル~70万ドルというエスティメート(推定落札価格)を設定した。

そして1月25日に行われた競売では、66万5000ドル。日本円に換算すると約9900万円で落札され、近年の国際マーケットにおけるグループBホモロゲートスペシャルの相場が、依然として高値安定であることを裏づける結果となったのだ。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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