「全部見よう」から「クルマを探そう」に変更し堪能した
モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。第18回目は、「1970年の大阪万博に来たクルマたち」を振り返ってもらいました。
インディカーが展示されていた!
今回はクルマに乗った、という話ではない。
2025年に大阪で万博が行われることになっている。世界から160の国が参加を表明し、目標来場者数は2820万人だそうだ。これを今から54年前の大阪万博と比較してみると、参加した国は77カ国。そして目標来場者数は3000万人だった。
実際はどうかというと、参加国は77カ国。しかし来場者数は目標の倍以上となる6400万人が来場したそうだ。2025年の大阪万博は現在結構暗雲が垂れ込めている。そもそも、海外のパビリオンと呼ばれる建物の建設が一向に進んでいない。一応50カ国が自前のパビリオンを建設することになっているそうだが、2024年時点で着工が始まったのはたったの1カ国だけ。どうなるのだろう? それにアンバサダーだった松本人志氏もどう考えてもヤバそうだ……。
その今から54年前の大阪万博、私も見に行った。叔母が神戸に住んでいたのでそこに寝泊まりして1週間。当時はまだ高校生だったけどかなり眼から鱗の事柄があった。
とにかく超絶人気があったのがアメリカ館。アポロ宇宙船や「月の石」が話題を独占していた。そんなわけだから開園と同時に長蛇の列になる。日中入ろうなんて思うと2時間3時間は当たり前に待つことになる。
だからある時、意を決し開園前にゲートに並び、開園と同時にアメリカ館までダッシュした。おかげで月の石やらアポロの着陸船なんかも見ることができた。でもそのアメリカ館には実は予想だにしなかったお宝(われわれにとって)が展示されていたのである。
それが当時インディ500を走ったSTPタービンカーをはじめとするインディカーとドラッグスターのマシンであった。
今のように情報があふれていないから、どこにどんな展示があるのかさっぱり見当もつかなかった。だから目の当たりにして驚きと興奮で鳥肌が立ったのを覚えている。
タービンカー、正式にはSTPパクストンターボというが、ドライバーの真横にプラット&ホイットニー製のガスタービンエンジンを搭載。左右非対称でこれまでに見たこともないスタイルのフォーミュラカーであった。
1967年のインディでは予選6番手からスタートしたパーネリ・ジョーンズがドライブするこのクルマがほぼ独走。ブッチギリで優勝と思われたゴールまであと3ラップというところで、トランスミッションのベアリングが壊れてピットインした結果、6位フィニッシュとなった。そのクルマが目の前にあった。他にももう1台インディカーが来ていたが、これは誰のマシンかわからない。加えてドラッグスターのトップフューエルマシンも来ていた。
アメリカ館ではそればかりを見て、月の石とアポロ着陸船は見たけれど、他に何が展示されていたかはさっぱり覚えていない。
フェラーリ512モデューロの実車が展示!
もう1館、イタリア館も同様だった。クルマ以外に一体何を見たのかまるで覚えていない。やはりアメリカ館同様にとんでもないインパクトだったのだと思う。イタリア館にあったのはピニンファリーナのフェラーリ「512モデューロ」だった。他にはバイクのMVアグスタも。モデューロの横に古いクルマの展示もあったが、そんなものはどうでもよかった。とにかくカッコ良かった。
あの頃、ちょうど自動車雑誌に夢中になっていて、モデューロはすでにジュネーブショーでお披露目されたものを見ていた。黒と白に塗られていたものが、目の前にあるモデューロは鮮やかな白一色に変えられていた。のちにこのクルマはフェラーリP4を所有するジェームス・グリッケンハウスが購入し、現在はニューヨークのナンバーをつけて、時々オンロードを走っているというから驚きである。
というわけで万博に対する興味は途中から「全部見よう」から「クルマを探そう」に移ったような記憶もある。当時まだ18歳で免許を取ったか取らないかという時期。海外など行ったこともなく、海外の食事の経験もない。
一番ビックリしたのはアメリカ館の外でテキサスのステーキを食べさせるところがあったのだが、畳2畳分はあろうかという巨大なオーブンの上に所狭しと巨大ステーキを置いて焼いていた。しかも呆れたのは焦げてしまうと片っ端から捨ててしまうことだ。あれほど驚いたことはない。同時になんていう国なんだとも思った。アメリカ初上陸はそれから15年ほど後であるが、やはり初上陸した時もその広大さやモノの豊富さに呆れ、こんな国に戦争を仕かけるなんて。ほんと「井の中の蛙」と思ったものである。
良い悪いはともかく、それ以来アメリカという国に興味を持ったことは確かである。戦争を経験した両親はいまだにアメリカが大嫌いだが……。
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