サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

雨でNGのレース用スリックタイヤで氷上が走れた! 溝がないのに意外と速く走行できた理由とは【Key’s note】

氷上走行のイメージ

氷に水が浮いてしまうと滑りやすくなる

溝のないスリックタイヤで氷上を走れる!?

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「レース用スリックタイヤは氷盤路でも速い!?」です。北海道・旭川にて、氷上を溝のないレーシングスリックタイヤで走行したという木下さん。なぜそのようなことが可能なのか? タイヤが滑る理由とともに解説します。

溝がなくても速さを見せつけた理由は水の有無

かつて国内で「マイナス41.2度」という最低気温を記録した極寒地、北海道・旭川の氷上を、レーシングスリックタイヤで走行したことがありました。

レーシングスリックタイヤは、トレッド面に一切の溝が掘られていません。ドライ路面のサーキットを速く走るためだけに開発したタイヤです。最高のグリップ性能を発揮しますが、それはあくまで乾いたドライ路面に限った話であり、ひとたび雨が降ればほとんど機能しません。

ドライでのレース中に突然降雨があると、スピンが多発します。ほとんどのドライバーが走行不能になり、トレッド面に溝が掘られてあるウエットタイヤに履き替えるためピットに飛び込んできます。そんなレースシーンを見かけたことも少なくないことでしょう。

ウエット路面をスリックタイヤで走行すると、多くのドライバーは「まるで氷の上を走っているみたいだ」と、グリップ力の低さをたとえます。そんなレーシングスリックタイヤで、氷上を走ったのですが、意外にも、かなりの速さを披露しました。むしろ、スノーロードでのグリップ性能を確保するために開発したスタッドレスタイヤより速く走れたのです。不思議なことですよね。

そんな不可解なことがあるのでしょうか。それは、タイヤが滑るというメカニズムを聞けば納得してもらえるはず。タイヤが氷盤路で滑るのは、路面とタイヤの間に水が発生するからです。水に乗ったことでタイヤが浮き上がり、タイヤのコンパウンドが接地を見離します。そのためタイヤが滑るのです。

それを回避するため、スノータイヤのトレッド面には無数のサイプが刻んであります。ミクロの世界ではありますが、氷上に浮いた水の膜を細かく刻んだサイプが吸い上げ、可能な限りタイヤが路面に接するように作用してくれます。

スノータイヤにシリカという物質が混ぜ込まれていますが、その物質にはミクロの空間があり、その気泡のような隙間に水の分子が入り込みます。トレッド面のサイプと同様に、水を吸い取ることで氷盤に吸着します。そうです、氷路で滑るのは、水の膜が悪さをしているのです。

そこで冒頭の、氷盤路をレーシングスリックタイヤで走っても速かった、の件ですが、極寒の気温は氷点下20度に達しており、氷が溶けにくかったのです。冷たい氷に皮膚が吸着するような体験をしたことのある方も多いでしょうが、イメージ的にはあの感覚です。タイヤが氷盤に吸い付いてしまったのです。

正確に報告しますと、アクセルペダルを強踏み込むとタイヤが空転します。すると摩擦熱が発生し、さすがにマイナス20度といえども水膜が発生、劇的にグリップダウンしたのですが、ソロソロとおびえるように走っている限り、発熱による溶解がなく、驚くほど高いグリップ性能を発揮したのです。

スリップのメカニズムは不思議ですね。北国にではまだまだ降雪があります。雪路を走行した時に、このコラムの話題を思い出してくだされば幸いです。

モバイルバージョンを終了