1994年にデビューした三菱らしさ満載のFFスポーツクーペ
1990年代の日本では日産「シルビア」、トヨタ「セリカ」、ホンダ「プレリュード」などスポーティなクーペが百花繚乱でした。そんな中、三菱から1994年にデビューした「FTO」は欧州車を彷彿させるあか抜けたデザインと三菱ならではの先進装備でライバルとは一線を画す存在と言えました。当時のカタログを通じてFTOを振り返ります。
FFのみの設定となった「新しいほう」のFTO
三菱FTO(や「GTO」)と聞いて、皆さんならまず思い浮かべるのは新旧どちらだろうか? 「ハンガー」とスッと言えるなら新しいほうのFTO、油断をしていると「衣紋掛け」と言ってしまう世代なら「ギャランクーペFTO」(または「ギャランGTO」)といったところか。筆者は衣紋掛けも見聞きしていた世代につき、「ギャラン」の名のもとに登場した最初のFTO(とGTO)は、今でもつい昨日のことのように思い浮かべられる。だが、フリーのモータージャーナリストになってからかれこれ30年弱、取材対象のひとつとして新型車を追いかけてきた筆者としては、新しいほうのFTOもおおいに印象的なクルマの中の1台だった。
「新しいほう」のFTOの登場は1994年10月のことだった。そのため2024年でちょうど30年前ということになる。ひと足先、1990年に市販化されたGTOが3LのV6ツインターボに4WDを組み合わせたスーパースポーツだったのに対し、このFTOはFFのみとし、全長4320mm×全幅1735mmという比較的コンパクトな(といっても3ナンバー車だったが)ボディサイズのクルマとして誕生した。
当時のデザイナーが語ったアイデアの源泉とは
このFTOで特徴的だったのは、やはり今見ても斬新で存在感のあるスタイリングだろう。実は筆者は当時、『GOLD CARトップ・ニューカー速報』の取材の機会を得て、デザイナーにインタビューをした。
その時に聞いた話では、シルビア、プレリュードといった2ドアクーペの人気が高かった時代で、当初はそれらライバル車を意識した案も考えた。だが、「それでは三菱車らしさがない」の判断から、仕切り直しが入り、思いきり独創性をもとめたデザイン開発へとスイッチ。その中から生まれたのが量産車として実現したFTOのデザインだった。
ちなみにエクステリアデザインのオリジナルアイデアを創出したデザインチームのOさんは「全体をスパッと割り切った、潔く節度感のあるものに。シャープな面で構成し、贅肉のない引き締めた成り立ちにした」と説明していた。
なおGOLD CARトップの誌面には掲載されなかったが、インタビューの席では内外のさまざまなスポーツクーペのキリヌキ写真をコラージュしたコンセプトパネルが用意され、その中にはウェッジシェイプと円(つぶ)らな丸目4灯のアルファ ロメオ「GTV」の写真も。偶然にも(?)当時、筆者は自分のクルマとしてまさにそのアルファGTVに乗っていたため、そのことは鮮明に記憶しているし、「ほほぉ」と思わせられたものだった。
アルファGTVはフロントからリアに向かって角度をつけてハネあがるキャラクターライン、スパッと裁ち落とされたテールの形状が特徴。対してFTOは、前出Oさんの言うとおり贅肉を落とし、代わりに前後フェンダーまわりを力みなぎる筋肉のような盛り上がりを作り、凝縮感のあるスタイルとしていた。バブルルーフ、当時のフラッグシップであった「デボネア」と共用したドアハンドルなども見逃せない要素だった。