フィアット好きなら訪れたいリンゴット
名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第31 回は「イタリアに行くなら絶対に寄りたい場所その2」をお届けします。
旧リンゴット工場は現在複合施設になっている
さてさて、お話を元に戻す前のお話に戻すことにしよう。……んっ? 何だかちょっとおかしな言い回しのような気もしないではないけど、まぁいいや。そう、2023年の春にひさびさに訪れた、トリノに行くなら絶対に訪ねるべく場所、パート2である。
トリノといえばフィアットで、フィアットといえばリンゴット。訪ねるべきはリンゴットなのだけど、リンゴットって何だ? という方もおられることだろう。
リンゴット(=Lingotto)とはトリノ市内にあるひとつのエリアの名前であり、熱心なフィアット・ファンにとってはほとんど聖地のようなところ、だ。なぜか。そこには第1次世界大戦が終わって数年後に完成したフィアットの巨大自動車工場が、今も歴史遺産として残されているからだ。
フィアットの旧リンゴット工場は、創業者であるジョヴァンニ・アニェッリ1世によって計画され、1916年に建設が開始され、1923年に操業を開始。1982年に閉鎖されるまで、長きにわたってフィアットとフィアット・グループのクルマを生み出し続けた。
この工場が特徴的だったのは、まずは凄まじく巨大だということ。全長500mオーバー、全幅80mオーバーの5階建てで、完成したときには欧州最大級の工場だった。それに製造のためのラインがとってもユニークなのである。一番下のフロアでの原材料の加工からスタートし、パートごとに組み立て・組み付けを行い、そのフロアでの工程を終えるとビルの片側の端にある螺旋状のスロープで上階へ、またそこでの工程を終えるとスロープで上階へ……というラインが組まれていて、屋上まで上がると、そこは両端にバンクのある1周1.1kmの楕円形の走行テストコース。走行に支障がないことが確認できたらビルの逆側のスロープで下へと搬出され、輸送用の鉄道基地へと回される。なかなかよく考えられていたのだ。
そのあたり、画像ギャラリーにて軽く補足してあるので、よかったらチラと見てみていただきたい。
旧リンゴット工場はクルマの生産拠点としての役目を終えても解体されることはなく、イタリアを代表する建築家のレンツォ・ピアノの案で、巨大なビルを維持しながら別の役割を持つ施設へと変貌していく。屋上にはドーム型の会議室とヘリポートが設けられ、ショッピングコンプレックス、シネマコンプレックス、オフィス、ホール、ホテルなどが入った複合施設となり、今に至っている。
数年前まではショッピングや映画を楽しんだりホテルに宿泊したりといった使い方ももちろんだけど、往時の佇まいを残した屋上のテストコース跡地もたしか市民に開放されていて、コースでランをする人や散歩をする人を見かけたものだった。