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元祖アルピーヌ「A110」は意外と快適。もちろん徹底的にナチュラルなコーナーワークは感動ものでした【旧車ソムリエ】

元祖アルピーヌ「A110」は意外と快適。もちろん徹底的にナチュラルなコーナーワークは感動ものでした【旧車ソムリエ】

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 神村 聖(KAMIMURA Satoshi)

最上のラリーカーは、最上のスポーツカーにもなり得るのか?

A110-1600Sのゴルディーニ製4気筒OHVユニットが発するパワーは、スタンダードで138ps。同じ1.6Lの「アルファ ロメオ ジュリアGTA」用ツインプラグDOHCが115psだったことを思えば、この時代ではかなりのハイチューンである。当然その走りはピーキー? と身構えていたものの、絶対的な軽さに助けられてだろうか、低回転域からすこぶるトルクフルに感じられる。

それでも足裏とエンジン、さらには車体すべてが直結しているごとく弾けるレスポンスや、デヴィルマフラーから発せられる、まるで叩きつけるようなエキゾーストサウンドは相当にスパルタン。WRC王者の風格をビンビンと伝えてくる。

RRスポーツカーといえば、今も昔も代表格であるポルシェ911がRRのセオリーどおりコーナー前にしっかり減速しておき、曲がったあとのトラクションでスピードを復活させるドライビングスタイルを要求してくるのに対して、A110-1600Sに乗ってみると、同じRRであっても格段にミッドシップ的であることが分かる。

カーブの入り口でノーズを進行方向に向けたら、軽い車体が間髪入れずスッと旋回してくれる。そのままスロットルを緩めに保持しながらクリッピングポイントを待ち、ここぞというタイミングでアクセルを踏み込むと、車体全体がはじき出されるように加速体制に入る。

スウィングアクスル時代の1600Sは、けっこうトリッキーな操縦性を示すことがあるとは話に聞いていたのだが、小心者の筆者が一般公道で走らせる程度のペースではオーバーステア傾向も感知できないほどに、ニュートラルなハンドリングを披露する。

もちろん、スペックの上では今どきのクルマには到底かなわないパワー/トルクながら、軽くてコンパクトな分、アジリティに優れた車体と細めのタイヤがもたらす、徹底的にナチュラルなコーナーワークは、電制システムでがんじがらめになった感もある現代のスポーツカーへの「アンチテーゼ」のようにさえ感じられてしまうのだ。

そして最後に強調しておきたいのは、軽量でスパルタンなスポーツカーとしては例外的に優れた乗り心地である。車体の剛性は、同じ時代のライトウェイトスポーツカーの常識を大きく上まわるレベル。そして、必要以上に硬くないサスペンションセッティングは、現在のアルピーヌA110にも共通する。

思えば、長距離を走るラリー競技で勝つことに主目的とした旧A110は、ドライバーとコ・ドライバーに一定以上の快適性を確保する必要があったのであろう。

もちろん、すべての事例に当てはまるわけではないだろうが、少なくともアルピーヌA110についていうならば「最上のラリーカーは最上のスポーツカー」あるいは「最上のスポーツカーは最上のラリーカー」と、脳内で再確認したのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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