20年ほど前に短期間だけ存在したEVメーカー、チョロQモーターズ
漫画『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』やゲーム『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインなどで知られる鳥山 明氏が2024年3月1日に亡くなられました。謹んでご冥福をお祈りいたします。クルマや航空機などの乗り物マニアでもあった氏は作品内でも魅力的なマシンを多数登場させていますが、じつは現実世界でも小さな1人乗り電気自動車「QVOLT(キューボルト)」のデザインを手がけていました。そのQVOLTと、「チョロQモーターズ」のマイクロEVたちを振り返ります。
実際に人が乗れるチョロQを作りたい!
EVがまだまだ限られた存在だった21世紀初頭に日本で生まれた小さなEVメーカーがチョロQモーターズである。チョロQとは玩具メーカーのタカラ(現タカラトミー)から発売されたクルマ系玩具の定番だったが、タカラが「実際に人が乗れるチョロQを作ろう」と、「チョロQの実車」を生産するために子会社「チョロQモーターズ株式会社」を設立したのは2002年のことだった。
チョロQモーターズは原動機付き自転車(四輪)に区分される1人乗り電気自動車のジャンルに参入することで、その夢を現実のものとした。具体的にはトヨタ系メーカー、アラコ(現トヨタ車体)の小型電気自動車「エブリデーコムス」の基本コンポーネンツの供給を受け、そのシャシーにコミカルなオリジナルデザインのボディを架装するという成り立ち。車両の開発・型式認証取得は、フォルクスワーゲン/アウディのチューニングなどで知られるCOXが担当した。
チョロQモーターズが作った小さな電気自動車は「Qカー」というシリーズ名で呼ばれ、市販車第1弾となる「Qi(キューノ)」、やや遅れて第2弾の「U(ユー)」が相次いでリリースされた。この他にも2002年の発表会で展示されたプロトタイプなど、市販されなかったモデルも含めると、鳥山 明氏がデザインした最後の市販モデル「QVOLT」まで、知られているだけで現在7車種の存在が確認できる。
しかしその話題の大きさとは裏腹に、チョロQモーターズは設立からほどなく「自動車製造業」から撤退。小さな電気自動車メーカーの挑戦は短期間で終焉を迎えた。
AMWでは「小さいクルマ・コレクター」である水口 雪さんの協力を得て取材した、彼が所有する「QVOLT」を含む5台のコレクションから、Qカーを歩みをここで振り返りたい。
最初に登場したのはいかにもチョロQっぽい「Qi(キューノ)」
チョロQモーターズが設立された2002年7月9日に同社から「Qi(キューノ)」、「U(ユー)」「QQ(ナインナイン)」の3車種が発表された。それら3台の中で最初に市販されたのがキューノである。
キューノのボディサイズは全長2200mm×全幅1100mm×全高1479mm。その生産台数は車名にちなんで限定999台とされた。特定のクルマをデフォルメしたモノではないが、いかにもチョロQ的なオリジナルのボディデザインとなっている。
これは999台限定で生産されたキューノの中でも、さらに99台限定で先行生産された初期ロットモデルだ。赤、黄、黒の基本色に加え、13色のオプションカラーも用意されていたキューノは、まるで遊園地の乗り物のようなコミカルな外観で、FRP製のボディはドアも屋根も持たない。
当時Qカーの発表会会場で佐藤慶太社長(当時)が「試乗を終えて戻ってくる人が皆ニコニコしていた」と語っていたのも納得の、まさに原寸大のおもちゃだ。
第2弾は屋根も荷台もある「U(ユー)」
こちらのユーはフロントウインドウにワイパー、ルーフや荷台といった装備も備え、実用性を高めたモデルとなっている。
発表会の時点でユーはQカー第3弾としてレンダリング・スケッチだけが発表されていたが、実際にはQカー第1弾のキューノに続いて市販されたのはこちらのユーだった。
実用方面にシフトしたユーには、ベーシック、タウン、サーフ、ペット、フィッシングと呼ばれる各種仕様が用意され、オーナーのライフスタイルに合わせて選択できた。これは当時「ライフエンタテインメント企業」を標榜していた同社の方向性にも合致するものだったろう。一説によると200台程度が生産されたと言われている。