北東風を意味するグレカーレ
イタリア語で北東風を意味するマセラティ「グレカーレ」は、2Lの直列4気筒直噴ターボを搭載するSUVです。今回は、エントリーグレード「GT」のボディ剛性の高さや快適な乗り心地など、リアルな試乗をモータージャーナリストの山崎元裕氏がレポートします。
素晴らしい乗り心地とホールド感
「レヴァンテ」に続く、マセラティでは2作目となるSUV「グレカーレ」に試乗した。ちなみにグレカーレとはマセラティがあの「ミストラル」以来好んで使用する風の名前で、イタリア語で地中海に吹く強い北東風を意味しているという。まさに激戦きわまりないミドルクラスのSUV市場で、グレカーレに追い風は吹くのか。今回はそのエントリーグレードとなる「GT」(車両価格922万円・消費税込)を選択し、試乗してみた。
ミドルクラスとはいえ、グレカーレのスリーサイズは全長4846mm×全幅1948mm×全高1670mm。前後のオーバーハングの短さからも想像できるように、ホイールベースも2900mmが得られているため、キャビンは前席、後席ともにつねに余裕のある姿勢でドライブを愉しむことができる。さらに後席の背後には535Lの荷物スペースが確保されており、SUVとして優れたパッケージングには、さすがは最新世代のモデルといった印象が得られる。
このキャビンを包み込むボディのデザインは、じつに落ち着きのある美しさだ。エアロダイナミクスが優秀であるのは当然のこととして、さらに細部にマセラティ伝統のディテールを採用してくるあたりに強い趣味性を感じる。中央に新時代のトライデントロゴを堂々と掲げるフロントグリル、フロントフェンダーにはコンパクトに並ぶトリプルサイドエアベント、スーパースポーツ「MC20」にモチーフを得たLEDヘッドライト、ほかにもフラッシュドアハンドルをそのまま再現したかのようなデザインのカーボンファイバーを使用したホイールなど、このグレカーレ GTの周囲をひと巡りすれば、マセラティというブランドの伝統と最新が簡単に理解できることだろう。
実際にドライビング・シートに身を委ねると、まず感じるのはその素晴らしい乗り心地と、ホールド感が演出されたシートの心地良さだ。後席も同様の印象で、こちらは座面のサイズがきちんと確保されていることにまずは好印象を受ける。キャビンの開放感も内装色の影響もあるのかとても高く、これならば長時間の移動でも十分にくつろいだ姿勢でこなすことができそうだ。
低中速域でのトルク感に驚かされる
センタースクリーンを上下2段方式とし、ほとんどの操作をここから行う仕組みであるのは、毎日の生活の中でこのクルマを使用していけば慣れる問題なのだろうが、さすがに短時間の試乗では、視線の移動量が大きく必要以上のスイッチ操作を行う気持ちにはなれなかった。そういえば、かつてマセラティ車に備えられていたアナログ式の時計も、文字盤は今ではデジタル表示に改められている。
グレカーレ GTに搭載されるエンジンは、2Lの直列4気筒直噴ターボ。それに48Vのマイルドハイブリッド機構(ベルトドリブンスタータージェネレーター=BSG)を組み合わせたものだ。同車のラインアップには同パワーユニットを搭載する「モデナ」も用意されているが、最高出力はGTが300psであるのに対して、モデナは330psと大きな差はない。ちなみに現在のトップグレードはV型6気筒3Lユニット、すなわち「MC20」譲りのネットゥーノエンジンを530psで搭載する「トロフェオ」。そして近くBEVの「フォルゴーレ」が追加される予定となっている。
それらと比較するとGTの300ps/450Nmというスペックは、一瞬物足りないようなものに感じるかもしれないが、実際の加速性能はやはり低中速域でのトルク感に驚かされる。回転は高速域までスムーズで、BSGとターボがじつにうまく協調してその感覚を作り出しているといった印象だ。
4つのドライブモードが選択可能
車重は1930kgもあるモデルだが、そのハンデは日本の一般道や高速道路で感じることはまずないだろう。アクセルペダルを強く踏み込めば、野太い排気音とともにグレカーレ GTは確実に車速を高めていく。
フロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンクを採用したサスペンションの動きにも十分な正確さがある。このGTグレードでは「GT」「オフロード」「コンフォート」「スポーツ」の4つのドライブモードが選べるが、そのセレクターはステアリングの右スポークにある。
一般的なドライブなら「GT」か「コンフォート」が、最も乗り心地に落ち着きがあってよい。ボディ剛性の高さももちろんこの快適な乗り心地に貢献する大きな理由。ミドルクラスSUVの市場に新たなチョイスが現れた。これからSUVを検討している方には、ぜひご一考いただきたい1台である。