11代目となるアコードがついに日本発売
1976年に初代がデビューして以来、ホンダのグローバルモデルとして成長してきた「アコード」。11代目となる新型が2024年3月8日に日本発売されました。早速その試乗インプレッションを、モータージャーナリスト島崎 七生人氏がレポートします。
時代ごとに新たな価値観を提案してきた歴代アコード
歴代アコードのごく個人的なトップ3というと、1位は3代目リトラ、2位は4代目USワゴン、3位は初代、である。それぞれ当時としてはとても魅力的に感じたクルマで、とくに3代目は、リトラクタブルヘッドライトの斬新さもさることながら、2600mmのホイールベースによる穏やかな乗り味、E30型BMW「3シリーズ」にも似た機能的でスマートなインパネ形状、それと個性にあふれたエアロデッキのスタイルなど、当時の日本車の中でも群を抜いたセンスがキラリと光っていた。夜の青山通りを走りながら、ブルーグリーンの日本精機製のメーター照明が「なんてクールなのだろう」とも思ったことを憶えている。
同様に4代目に設定されたオハイオ生まれのUSワゴンも、最小回転半径の大きさがただひとつのウィークポイントだったが、そのことにだけ目をつむれば、静かでなめらかな乗り味とじつにエレガントなワゴンのスタイルにこれもまた魅了された。当時、たまたま借り受けた試乗車に、ウーファーユニットを交換することになった自宅のJBLスピーカー(L40、今も愛用している)をエンクロージャーごとエアキャップで包んでラゲッジルームに載せ、オーディオショップに運んだりした。
そして初代アコードというと、ちょうど筆者が運転免許証を取得する前年の1976年5月にまず3ドアハッチバックがデビュー。「シビック」よりも上級のモデルとして注目されたが、これから免許を取ろうとしている当時の若造の筆者にはいささか大人なクルマで、自分で乗るというより、そのスマートさを眺めている……そんなクルマだった。「サルーン」と呼ばれたノッチバックセダンも、ハッチバック登場の翌年1977年に初代が登場している。
シンプルな美しさが際立つスタイル
さて、初代ハッチバックの登場から時は流れて、じつに11世代目となるのが今回お目見えした新型アコードだ。10代目の終了から少し間をあけての登場となったが、はたしてどういうクルマなのか?
ファーストインプレッションは、かなり魅力的なセダンに仕上げられてきた、ということ。とりわけ筆者がいいと思ったのがスタイルと走り。スタイル? 先代とたいして違わないんじゃない? と思われる向きもあろうかと思うが、ファストバックのシルエットこそ10代目と同様ながら、デザインはまったく新しく、その「質」もグッと高められた。
これまでのような余分なプレスラインや、フロントにこれでもかと使われていたメッキの加飾類が徹底的に排除され、外観上の光り物といえば繊細なクロームのモールがサイドウインドウのグラフィックに沿って使われているのみで、その後端も自然に太さを変化させて止めている。ボディ全体もとにかくスリークで、先代+75mmという全長の伸びやかさは眺めているだけでも気持ちがいい。余分なことは一切せずにシンプルな美しさが際立つスタイルに仕上げられたと思う。
室内の居心地のよさもハイレベル
ちなみにインテリアも、ここ最近のホンダ車の文法ともいえる水平横一文字基調のインパネが備わり、10.2インチメーターディスプレイやセンターの12.3インチディスプレイもさりげない扱いで備わる。インパネ(とドアトリム上部)に新しいシボが使われ、見た目も触感も上質な味わい。
それと何より上級セダン(今やアコードはホンダのフラッグシップなのだ)らしい居心地のよさはなかなかのもので、とくに後席はやや起こされたトルソアングル(背もたれの角度)やしっかりと取られた座面前後長、足元、頭上、横方向のゆとりのある秀逸な空間作りは、外観からは想像しにくいが、理屈抜きでくつろげる。また実際に乗り降りしてみるとドア開口も大きく、ストレスなく行える。
もちろんドライバーズシートに座り、まわりを見渡し走り出してみると、自分の操作とクルマの動きに齟齬がなく、途端にクルマとの一体感が味わえるよう設えてある。それは「ああ、やはりこういういいセダンはいいね」と思える瞬間だ。