世界遺産を預かっている気分
しかし、Hさんの幸運はさらに続く。彼のラインアップは完成などしていなかったのだ。2台が揃ってしばらくしたのち、ふと目にしたカーセンサーでHさんは信じられない情報を発見した。東京のショップが前期型2000GTを価格応談で掲載していたのだ。中古車の検索サイトなど普段は滅多に見ないHさんだったが、その日はなぜか2000GTを検索していた。これは後日判明したことだけれども、ショップの方も数日限定で載せるつもりだったという。
いてもたってもいられずにHさんはショップに電話した。とにかく見に行かせてくれ、と頼み込んだ。ショップの方でも焦ったようだ。この手のモデルの場合、冷やかしやマニアの個体確認が多く、いちいち相手などしてはいられない。それにもはや世界的なコレクションアイテムとなった高額モデルである。車体番号や所在地など個別の情報を悪用されないとも限らない。店としても本当に購入できる客なのかどうか、見せる前に見極める必要がある。でも、Hさんは東京から500km離れた土地に住んでいた。確認する方法は限られている。諦めてもらうつもりで店側は告げた。
「購入する意思がおありなら、すぐに前金を入れてください。見にきていただいて、気に入らなければ返金しますので」
Hさんは言われた通りの額をすぐに送金した。驚いたのはショップの方で、ならばと見てもらう段取りをつけた。Hさんは驚いた。そこにあったのは、以前、ロッキーオートで見た個体そのものだったのだ。いっそう綺麗に仕上げられていたが、特徴的なポイントがいくつかそのまま残されていた。運命を感じたHさんは、その前期型も購入する決心をした。
全てはこの2年ほどの間で起きたことだ。Hさん自身も3台が揃ったガレージを前にしてこう答える。
「まだ夢を見ている感じです」
もちろん、これだけのモデルを一気に買ってしまうのだから、それだけの資産もお持ちなのだろうし、購入資金をどうやって工面したかまでは聞かなかったし、聞く必要もない。ただ一つ言えることは、良いクルマは思いの強い人の元へと嫁ぐということだ。
「世界遺産をね、今は預かっている気分なんですよ。だからね、できるだけ大事に扱って、次の方に渡す準備を楽しまなきゃいけないなって思ってます。幸せというより責任重大ですよね」
Hさんはそう言って、少年のように微笑んだ。