ドイツの特殊な事情
そうしたなか、ドイツの苦しさは、速度無制限のアウトバーンを持つことだ。空気抵抗は、速度の2乗に比例して大きくなる。時速100kmの2倍の時速200kmで走れば、空気抵抗は4倍になる。時速80kmから100kmへ上げただけでも、空気抵抗は50%も増えるのだ。これでは、いくら大容量のバッテリーを車載しても、一充電走行距離は限られる。そこで、メルセデス・ベンツはEVの最高速度を時速180kmにするなどの対策もとっている。
しかしアウトバーンに慣れ親しんだ消費者が、すぐに速度を抑えて走ることに不満を募らせるのは当然だ。対応策として、無暗に高電圧の超急速充電器を整備する話が出ているが、環境問題からすれば本末転倒なのである。
スローライフという言葉に象徴されるように、適切なエネルギー消費で満たされる快適な暮らしの創造が21世紀には求められる。そのきっかけとなるのがEVだ。ここを理解せず、脱二酸化炭素のお題目だけでEVを開発し、販売し、普及させようとしたら失敗する。
CO2排出抑制だけでは済まない時代
100年前に比べ、世界人口は5倍に膨らんだ。それほど多くの人間が幸福に暮らし、生涯を終えるには、程よい快さで満たされる暮らし方の創造が欠かせない。
20世紀に築かれた石油を背景とする既得権を守ろうと、「敵は炭素だ」などの発言も、本末転倒だ。水素も合成燃料もバイオ燃料も、採算が合わない。それらに必要な水や作物などは、飲料や食物と対立する。飲食を断って、燃料を手に入れるというのか。石炭を止めアンモニアを燃やす案も、その燃焼で排出される一酸化二窒素は、CO2の300倍近い温室効果がある。
「敵は炭素」ではなく、「敵は温室効果ガス」というべきだ。その点で、天然ガスと呼ばれるメタンも、CO2の25倍もの温室効果がある。だからこそ、永久凍土が溶け出している現実を軽視できないのである。
CO2排出を抑えればよいという次元をもはや超えた時代にわれわれは生きている。再生可能エネルギーや原子力を最大に活かした電力を背景にEVに乗るか、気候変動による干ばつや水不足を受け入れ餓死を覚悟するか、そういう究極の選択の時代に突入していると自覚すべきだ。すでにアマゾンの大河は渇水しはじめ、パナマ運河は水量の減少で通行しにくくなり、世界の物流に影響を及ぼしはじめている。食料自給率で40%を切る日本は、輸入が止まれば兵糧攻めにあうのである。