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「ワーゲンバス」の価格は「窓の数」に比例する!? 約600万円で落札されたVW「タイプ2」が予想よりも安かった理由とは

3万6800ユーロ(邦貨換算約600万円万円)で落札されたフォルクスワーゲン「タイプ2スプリットスクリーン」(C)Bonhams

可愛いけれどマジメなVWタイプ2コンビ

「レトロモビル」は、フランスの首都パリにて毎年2月に行われるクラシックカー・トレードショーの世界最高峰。そして開催期間中には付随するかたちで、オフィシャルオークションである「アールキュリアル」や業界最大手の「RMサザビーズ」など、複数の国際格式オークションがパリ周辺にて開催されました。また、おなじみRMサザビーズにとっては最大のライバルと目される「ボナムズ・オークション」社は、「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS(パリに集う世界の偉大なブランドたち)」と銘打ち、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とした大規模オークションを開催。今回はその出品車両の中から、今や全世界で大人気のフォルクスワーゲン初代「タイプ2」のモデル概要と、注目のオークション結果についてお伝えします。

ある実業家の秀逸なアイデアから生まれた、商用車の歴史的傑作

ビートルこと「タイプ1」にも匹敵する名作、フォルクスワーゲン「タイプ2」の起源は、第二次世界大戦後に英国軍の管理のもと復活の第一歩を踏み出したフォルクスワーゲン社の、オランダにおける代理人となったベン・ポンのアイデアにまで遡るといわれる。

1947年、タイプ1が初の輸出先としてオランダを選んだ際、ポンはヴォルフスブルクのVW工場を視察に訪れ、そこで異様なパーツ運搬車に目をつける。それはタイプ1のベアシャシーをベースに、リアのエンジン上に運転席を設置。車体前方を貨物スペースとしたトランスポーターで、工場スタッフがありあわせのパーツで手作りしたものだった。

ベン・ポンは、タイプ1のフラットなシャシー構造と簡潔ながら秀逸なトーションバー式サスペンション、そして小型軽量な空冷水平対向4気筒エンジンを活かせば、スペース効率に優れたキャブオーバー型の汎用ボディを架装できるのでは……、と確信。翌1948年1月より新生VW社のかじ取りを任されたハインリッヒ・ノルトホフ社長に話を持ち掛け、ともに設計に携わることになったという。

その結果1950年に登場したタイプ2は、西ドイツ復興を担う商工業からファミリーユースまで、さまざまな用途に対応する多種多様なモデルへと発展してゆくことになる。

タイプ1用プラットフォーム式シャシーには、「Lieferwagen(リーファーヴァーゲン:デリバリーバン)」または「Kastenwagen(カステンヴァーゲン:箱型バン)」と呼ばれるパネルバンのほか、取り外し可能な座席と簡素ながら内装トリムも与えられた乗用貨物兼用の「Kombi(コンビ:ワゴン)」、後部が荷台となる「Pritschenwagen(プリッチェンヴァーゲン:平床トラック)」などのボディが組み合わされた。

また、多人数乗用バージョンの「Kleinbus(クラインブス:小型バス)」は、のちに「サンバ」の愛称のもとアメリカをはじめとする海外でも高い人気を得るなど、タイプ2シリーズ全体で「Bulli(ブリー:ブルドッグの意)」の愛称で親しまれることになった。

大成功を収めたブリーにとって最初のモデルチェンジは1968年に行われるが、その時点で200万台近くが販売されていた。

ちなみに、新型タイプ2におけるもっとも明白な違いは、一体型のラップアラウンド式ウインドスクリーン。公式には「T2」と呼ばれる第二世代モデルには、「ベイ(Bay)」というニックネームが与えられることになる。

ウインドウの数は、マーケットでの相場価格にも反映される?

このほどボナムズ・オークション社が開催した「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS 2024」オークションに出品されたフォルクスワーゲン・タイプ2は、乗用/貨物併用のワゴン版で、前後左右総計で11の窓を持つことから「11ウインドウ」とも呼ばれるタイプ2「コンビ」。現代のエンスージアストにとって望ましい「スプリットスクリーン」を持つ初期型「T1」としては最終年次にあたる、1967年に生産された1台とのことである。

大量生産された実用車の例にもれず、この個体も生産以後のヒストリーは判っていないことが多い。英国では2004年12月から、フランスでは2023年5月から登録されており、いずれかの時期にかなり高度なフルレストアも施されてはいるものの、残念ながらボナムズ・オークション社側でも、出品者である現オーナーもその時期やレストア内容に関する詳細は把握していないとの由であった。

また、現時点でオドメーターが表示している走行距離は9万5909マイル(約15万3500km)、そのうち2010年以降に新たに刻まれたのは1万4876マイル(約2万3800km)とのことながら、このオドメーターは5桁表示のため実際の積算走行距離は定かではない。

それでも、メカニカルコンディションは曰く「例外的なほど」に良好で、現在では入手困難な7席分のシートとグリーンのスモークウインドウはオリジナルのものが装着されるなど、状態およびオリジナル性の面でかなり良好なT1コンビであることは間違いないようだ。

くわえて、2014年から2022年に至る英国「MoT」車検証(最新の有効期限は2023年9月26日)が保管されているほか、同じく英国の「V5C」登録証明書や通関書類も添付。さらにフランス国内における歴史的車両のタイトルを取得するための「FFVE」認証も、すでに申請中とのことである。

この魅力的なタイプ2-T1コンビに、オークショネアであるボナムズは現オーナーとの協議の結果、4万ユーロ~6万ユーロというエスティメート(推定落札価格)を設定した。

ところが2月1日、パリ市内の「グラン・パレ・エフェメール(THE GRAND PALAIS ÉPHÉMÈRE)」を会場として行われた競売では、売り手側が期待していたほどにはビッドが進まなかったようで、終わってみればエスティメート下限を大幅に下回る3万6800ユーロ。日本円に換算すれば、約600万円で落札されるに至った。

最初期型のVWタイプ2といえば、近年では1000万円を大きく超える高値で取引されている事例ばかりが目につくが、それは同じT1でもフロントおよびサイドウインドウの上にも長方形の窓が据えつけられた「サンバ」バスについてのこと。実際、同じく2024年版レトロモビルにて公式オークション「アールキュリアル」に出品された「23ウインドウ」サンバは、こちらの「11ウインドウ」コンビの約2.5倍に相当する9万1784ユーロで落札されている。

空冷VWの世界では「ウインドウの数が価格に比例する」ともいわれるマーケット市況を思えば、今回の落札価格はきわめて順当なものだったかに思われるのだ。

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