スキーのために単身カナダへ
さて、大学を卒業後に日本を離れ、スキーのために単身カナダに渡った赤星氏であるが、運命は期せずしてJAOSへと繋がっていくことになる。
「カナダのウィスラーというスキー場で働いていましたが、1996年にラスベガスで毎年行われている北米最大の自動車部品見本市であるSEMAショーにJAOSとして初出展、これは日本の4WDアフターパーツメーカーとしても初めて米国SEMAショーへの出展だったのです。そのときにカナダに住んでいた私に手伝ってくれないかと打診があり、当時社内には英語ができる人材が少なかったこともあって、出展の手続きや現地コーディネーターとして手伝うことになったという経緯があります。その後、1997年以降も継続してSEMAショーに出展することになり、1997年から正式に海外事業部としてJAOSに入社したという次第です」
──赤星氏が1997年にJAOSに入社してからは、2000年に東京の本社機能を群馬工場と統合。折しも日産にゴーン氏がやってきて村山工場を閉鎖するなどのコストカッターぶりを発揮していた頃。JAOSも効率化できることはないかと模索していたという。
「2002年にモデリスタさんからランドクルーザープラドやハイラックスサーフ、RAV4、ランクル70といったSUV系のカスタマイズに関する相談を持ちかけられました。この時にモデリスタさんとお仕事ができたことは、われわれにとっても多くのメリット……たとえばモノづくりに対するアプローチの方法であったり、製品精度の高さ、デザインに関してなど、気づきも多かったのです。いろいろな意味で現在のJAOSがあるのは、この時の経験によるところが大きく、現在も良い関係が続いています。
ほかにも今年のオートサロンで発表したレクサスGXもそうです。新型のGX550は、2024年中に出るということだけアナウンスされていて発売もまだ先ですが、『OVERTRAIL』というキーワードでカスタマイズさせていただきました。
レクサスさんとの関係は、さかのぼると2022年のLXのフルモデルチェンジの頃からです。ここで『OFFROAD』というグレードが加わるのですが、『JAOSでカスタマイズについて提案してもらえないか』とお話をいただきました。レクサスのLXで何ができるだろうと考えたとき、最高峰のクルマに見合うことを考慮して、レースで使うようなインフュージョン成形のウェットカーボンを使った製品や、普段のアフターパーツではできないようなことにチャレンジしました。
新型GXでは、この『OFFROAD』というグレードが『OVERTRAIL』へと進化したのです。もともとオフロード性能の高い車両のポテンシャルをさらに引き上げた、ある意味ではトヨタでいうGRのオフロードバージョン的なポジションとして企画されたそうです。レクサスというと、どうしてもラグジュアリーなイメージが先行しがちですが、実際には堅牢でオフロード性能も極めて高い。そこで、その本来のタフな資質をわかりやすく体現しているのが『OVERTRAIL』という新たなグレードです」
ラリーで戦うことで磨かれていくパーツと人材
──新型GX550 “オーバートレイル”カスタマイズモデルを発表した東京オートサロンの話を伺っている際に、赤星氏が唯一会場で写真を撮ったブースが、ホンダだったという話に。その1枚だけ撮った写真というのが、巨大なモニターに映し出された「クルマはレースをやらなければ良くならない」という本田宗一郎氏の有名な言葉。JAOSも2003年からアジアクロスカントリーの出走車両を製作しており、赤星氏自身もコ・ドライバーとして参戦した経験を持つ。コロナ禍前の2019年にはクラス優勝を果たした。レクサスLXでの「本物の用品」とは、こうした過酷なレースからのフィードバックがあったのはいうまでもない。
「ラリーへの参戦は、モノづくりへのフィードバックに加え、人作りという側面もあります。そしていまは、そうしたわれわれの活動を動画やフォトブックなどを作って、広くユーザーさんに伝えていくことが大切だと考えるに至りました。現在はInstagramやfacebookなどの伝達手段があるので、そうしたSNSを使いながら、ユーザーさんに共感を得られるパーツを提供し、JAOSの製品に対して憧れを持ち、そして信頼して装着していただけるように発信していく所存です」
──アジアクロスカントリーラリーでクラス優勝したJAOSは、現在次なる目標を掲げてプロジェクトを進めている。それはカリフォルニア半島で開催される「SCORE BAJA 1000」へのチャレンジだ。2022年、2023年と参戦し、今年で3回目のチャレンジとなる。
「レクサスは北米市場がメインなので、北米で開催されるレースに出てみようということで、BAJA 1000に白羽の矢を立てプロジェクトをスタートしました。2023年のオートサロンでは、TEAM JAOSのLX600をTGRブースに飾っていただいて、当時まだトヨタの社長だった現・豊田章男会長から『ダカールラリーと双璧をなす世界でも類を見ないデザートレースにチャレンジして、レクサスの荒々しさを象徴するには良いんじゃないか』との言葉を頂きました。アジアクロスカントリーラリーと違い、日本人チームはほとんど出場していないためかなりアウェーの状況ですが、そうした厳しさも含めてチャレンジだと捉えることにしています」
──究極のSUVのイメージはオーバートレイル……道なき荒野を切り拓いて進む姿ではないだろうか。JAOSはこれまで、日本のSUV業界では初めてSEMAショーに出展するなど、SUV業界のパイオニア的な存在、いうなればオーバートレイルを地で行く企業だ。そのJAOSがいま、新たなチャレンジの舞台として選んだのが、BAJA 1000である。赤星氏がチームとして参戦したBAJA 1000でのエピソードを語る表情は熱がこもって明るく楽しげだ。まさしく「真剣に楽しむ」というJAOSのモノづくりの姿勢そのものである。