ショックアブソーバーの今をカヤバで見た
クルマのショックアブソーバーをはじめ、産業用のあらゆる油圧機器を手がける「カヤバ」。その報道関係者向け勉強会に参加し、技術の一端を体感してきました。BEV時代にはクルマ作りが簡素化され新規参入プレーヤーが続々……、などと言われたりもしますが、そのノウハウは一朝一夕で自家薬籠中にできるものではないとの思いを新たにした体験でした。
「油を使うパーツ」がゼロになる日はまず来ない
いわゆるBEV(バッテリーEV)の時代になると、クルマ作りが簡素化されて異業種からも新規参入プレーヤーが続々……などと語られるが、そう語る人や真に受けたがる人が、本当にクルマの運転をする人なのかどうか、一度は疑ってみた方がいい。というのも、電気の高効率とか自動運転の利便性に異を唱えるわけではないが、BEVでも油を使って動かさなければならないパーツは多々ある。ステアリングやブレーキといった操作系はバイワイヤ、つまり油圧を介さず電気だけで実現できる見込みがついているが、クルマが「動きモノ」である以上、油を使うパーツがゼロになる日はまず来ない。それに油圧でできていたことを磁石や電気で置き換えるとしても、制御するノウハウは一朝一夕で自家薬籠中にできるものではない。
という思いを、カヤバが岐阜北工場で報道関係者向けに行った勉強会を通じ、新たにした。カヤバは4輪や2輪のショックアブソーバーだけでなく、産業用を含めあらゆる油圧機器を手がけている。しかもショックアブソーバーを作るのに、スチールの板材を切って丸めて溶接して、シェルケースにするところから内製だ。ストラットといって、シェルケースに座金がついてショックアブソーバー自体がサスペンションの応力構造を兼ねる方式では、十分な剛性がいる。
ショックアブソーバー以外にも欠かせない
また、より高級志向で、ドライバーが操作ひとつで減衰力を可変させられる方式のショックアブソーバーは、側面にソレノイドバルブを足して内側の油圧を細かく制御するため、これまたシェルケース自体に複雑な加工が要る。いわゆる「ガワ」だけでなく、ロッドやピストン、ベースバルブまで内製して、もちろん自分たちの手元で組み立てアッシーとして組み付けるのだ。無論、ショックアブソーバーは、1車種に対して何種類も異なるため、さまざまな品番のショックアブソーバーの生産は、巧みにオーガナイズされ、速いケースでは受注から数時間で、完成車メーカーの工場に納品するという。
カヤバはショックアブソーバー以外に、電動パワーステアリングや電動油圧ポンプも扱っている。オフロードを200km/hで突っ走るレジャービークルのような分野、いわばエクストリームスポーツで、カヤバの電動油圧ステアリングは圧倒的シェアをもつ。一方で、電動油圧ポンプはこれまでCVT用からe-アクセル、つまり電気モーターやインバーター、減速ギアを組み込んだモジュールの冷却に転用されていくという。荷物を積載して長い登り坂を上る時など、BEVでも駆動周りの発熱は当然あるので、油冷ポンプモジュールは欠かせないものだ。
モビリティ空間における「振動絶縁技術」
現時点で、すでに市販車に搭載あるいはこれから搭載される熟成済みの技術を、テストコースで試乗車を用いて試すこともできた。
1車種目は、中国BEVの先鋒であるBYD「アット3」を2台。ノーマル車もカヤバ製を装着しているのだが、よりハイエンドなカヤバ製を装着した車両と、走りを比べるのが趣旨だ。後者のアシは筒内にオイルストッパーを備えた「ダンパー・イン・ダンパー」タイプなので、中高速域で路面の荒れやうねりを越えても、どっしりと安定感が違う。加えて「ADC(バルブ枠周波数感応)」という、低速域のツンツンした細かい上下動を抑える機構まで備え、乗り心地の上質さも断然上だった。
お次も純メカニカルなショックアブソーバーの比較で、2台のトヨタ「カムリ」。ノーマル車と「次世代ピストン&ベースバルブ」装着車だった。筒内のオイルの流れ、流路の形をピストンとベースバルブで最適化されているそうで、ノーマルよりステアリング操舵に忠実と感じた。ユーザー以上に、造り手の作業に資するノウハウといえる。